microbiology round

2024.3.21のMicrobiology roundではB群溶血性連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)について学びました。

【微生物学的特徴】1) 2)
• Lancefield分類B群を構成する唯一の菌 (Group B streptococcus: GBS)。
• 血液寒天培地で灰白色の3-4mmのコロニーを形成し、狭い範囲でのβ溶血性を示す。
• 莢膜抗原に基づいて10の血清型(Ia、Ib、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX)に分けられる。

【疫学】1)
• 女性では10-40%で生殖器や消化管に定着している。男性では10-25%で消化管に定着している。
• 妊娠中のGBSによる無症候性細菌尿は、同菌の高密度な生殖器への定着を示唆する。
• 黒人での定着率はその他の人種と比べて高い。
• 糖尿病患者では妊娠中の定着率が高くなる。
• 出産時に母子感染が起こり、膣にGBSを保菌している場合は早産のリスクが高くなる。
• 保菌者が抗菌薬投与を受けずに出産した場合、50%の確率で垂直感染が起こる。

【病原性】1)
• GBSは莢膜を産生し、保体の沈着、貪食を阻害する。膣、腸上皮、胎盤膜、気道上皮、血液脳関門内皮などに付着し、粘膜表面にコロニーを形成し、表面を破って感染を起こす。感染に関わるホスト側の要因は不明である。

【臨床的特徴】1)
小児期
• 早発型(日齢0-7日)、遅発型(日齢7-89日)、超遅発型(日齢90日以降)に分類される。3)
• 早発型の発症までの平均時間は12時間。母体の産科的合併症や、37週未満での出生で発生率が上がる。菌血症(85%)、肺炎(10%)、髄膜炎(5%)。4)
• 遅発型の発症中央値は36日、髄膜炎は26%、死亡率は3-5%。5) 早産と関連している。菌血症と髄膜炎以外にも、骨髄炎、化膿性関節炎、蜂窩織炎など局所の感染も起こり得る。
• GBSによる髄膜炎では50%程度で神経学的な後遺症が残る。
妊婦
• GBSは周産期の子宮内膜炎(15%)、妊娠関連の菌血症(15%)、帝王切開後の創部感染症(15%)と関連している。
• GBS保菌の妊婦では、前期破水、出産後の発熱、子宮内膜炎の発生率が高くなる。
• 死産の1%程度でGBS感染が関連している。
高齢者
• 85歳以上では65-74歳のグループと比較して罹患率は3倍になる。6)
• 侵襲性GBS感染症患者(非妊婦)の基礎疾患:糖尿病 (30%)、肝障害やアルコール利用障害(24%)、神経学的疾患(21%)、悪性腫瘍(19%)、腎障害(14%)、心疾患(14%)など。
• 感染のフォーカス:フォーカス不明の菌血症(30-50%程度)、肺炎、感染性心内膜炎(GBS菌血症のうち5.4%、死亡率は29%)7)、関節炎(3分の2は単関節、部位は膝、肩、股関節、胸鎖関節、仙腸関節など)、骨髄炎、皮膚軟部組織感染症(GBSの局所感染として最も多い)、髄膜炎(死亡率は34%、生存者の7%で難聴が生じる)、尿路感染症。
• GBS菌血症は4-7%程度で再発する。再発までの平均期間は24週。再発時に感染性心内膜炎や骨髄炎として診断されることがある。

【治療】
• ペニシリン、セファロスポリンに感受性がある。ペニシリンGが第一選択薬である。
• ペニシリン結合蛋白の1つであるPenicillin-binding protein 2X(PBP2X)が変異したペニシリン低感受性B群レンサ球菌(Group B streptococci with reduced penicillin susceptibility, PRGBS)が報告されている。8)
• 院内感染対策サーベイランス(JANIS)において、ペニシリンG非感性は1.2%と報告されている。9)
• 信頼性のある代替薬としてはバンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシン。

【予防・ワクチン】
• 「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」においてGBS感染予防対策が推奨されている。
1. 以下の方法でGBS保菌を確認する。
 1) 妊娠35~37週に培養検査を行う。2) 検体は膣入口部ならびに肛門内から採取する。
2. 以下の妊産婦の経膣分娩中あるいは前期破水後、新生児の感染を予防するためにペニシリン系などの抗菌薬を点滴静注する。
 1)1でGBSが同定 2)前児がGBS感染 3)今回妊娠中の尿培養でGBS検出 4)GBS保菌状態不明で、破水後18時間以上経過、または38.0度以上の発熱あり
• 妊婦に接種することで乳児の侵襲性 B 群溶血性連鎖球菌感染症を予防する目的で、6価の血清型特異的莢膜多糖類・交差反応性物質197複合糖質ワクチン(GBS6)が開発中である。10)

【参考文献】
1) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition
2) Manual of clinical microbiology 11th edition
3) 小児感染免疫 Vol.34 No.3 219-234
4) JAMA. 2008 May 7;299(17):2056-65.
5) Pediatr Infect Dis J. 2008 Dec;27(12):1057-64.
6) 6)J Infect Dis 2000; 182: pp. 168-173.
7) BMC Infect Dis. 2022 Jan 4;22(1):18.
8) https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2316-related-articles/related-articles-426/5861-dj4268.html
9) https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2022/3/1/ken_Open_Report_202200_Outpatient.pdf
10) N Engl J Med 2023; 389:215-227

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育