microbiology round

更新が滞っておりましたが2023.12.28のMicrobiology roundではStreptobacillus moniliformisについて学びを深めました。ふれあい動物園でモルモットを触った子供に「よく手を洗わないとStreptobacillus moniliformisに感染するよ」と、いつか父の威厳を示したいです。

【菌名の由来と歴史】
Streptobacillus : a twisted or curved small rod
Moniliformis : necklace-shaped
ネズミ咬傷後に病気になることはインドでは2000年以上前から知られていた。1839年には米国でRat-bite feverの特徴的な症候群の記録が残されている。20世紀初頭にStreptothrix muris rartiと名付けられたグラム陰性桿菌が臨床検体から検出された。また1925年に発熱、皮疹、関節炎を呈する検査室職員の血液培養から、形態がビーズのネックレスに似ているStreptobacillus moniliformisが検出された。1926年にはマサチューセッツ州のヘイバーヒルでRat-bite feverに似た感染症が流行し、その患者の血液からHaverhillia multiformisが検出された。その後、H. multiformisとS. muris rattiの両方が、Streptobacillary rat-bite feverの原因菌であるS. moniliformisと同一であることが判明した。

【微生物学的特徴】
•グラム陰性桿菌、多形性、非運動性、無芽胞、無莢膜性。レプトトリキア科(Leptotrichiaceae)
•不規則に染色されるため、グラム陽性多形桿菌と間違われることがある。
•微好気、炭酸ガス嗜好性であり、培養には8-10%の二酸化炭素分圧が必要。
•好気ボトルに抗凝固薬として添加されているポリアネトールスルホン酸ナトリウム(SPS)はS. moniliformisの発育を阻害する。
•培養には時間がかかるため、疑った場合には培養期間延長を検査室に伝える。

【疫学】
•50-100%のネズミはS. moniliformisを保菌している。健康的な実験用ネズミも保菌している。
•歴史的には貧困地域、密集した都市部、野生のネズミが多い田舎での居住が感染のリスクである。
•ペットショップの店員、動物実験のスタッフも感染リスクが高い。
•ネズミ、モルモット、リスなどに噛まれたり、引っ掻かれたりすることで感染する。ネズミ咬傷後の感染リスクは10%程度。皮膚に傷がなくてもネズミを取り扱うことで感染することもある。
•ネズミの糞が混入した食物を摂取することでも感染する (Haverhill Fever)。

【臨床的特徴】
•ネズミ咬傷から短い潜伏期間(1-22日、通常は10日未満)を経て、発熱、悪寒、頭痛、嘔吐、移動性の関節痛・筋肉痛が出現する。局所のリンパ節腫脹は軽微かほとんどない。
•発熱から2-4日後に、掻痒感のない、麻疹様の斑状丘疹、点状出血、水疱性発疹、膿疱性性発疹が、手掌、足底、四肢に出現する。発疹は紫斑になり、癒合し、最終的に落屑する。
•50%の患者が発疹と同時かその数日後に非対称性の多発関節炎や、化膿性関節炎を発症する。部位は膝が最も多く、足関節、肘関節、手関節、肩関節、股関節などにも発症する。
•通常は抗菌薬なしでも3-5日後に解熱し、2週間で症状が消失する。関節痛は2年間続くこともある。
•数週間から数ヶ月にかけて不規則な発熱の再燃がおこり、不明熱の原因となる。

【合併症】
•感染性心内膜炎、心筋炎、心膜炎、敗血症、血管炎、髄膜炎、肺炎、肝炎、椎体炎、羊膜炎
•膿瘍:脳、肝臓、脾臓、腎臓、硬膜外、椎骨、皮膚、筋肉、女性泌尿生殖器
•血管内感染の多くは人工物、石灰化やリウマチ熱で変性した心臓の弁に生じる。

【診断】
•発疹を伴う発熱で、ネズミの暴露がある場合に疑う。
•鑑別はレプトスピラ症、腸チフス、黄色ブドウ球菌、髄膜炎菌、ウィルス感染(麻疹、パルボ、HIV、デング、EBV、エンテロ)、手掌に発疹ができることからリケッチア、二期梅毒など。
•関節痛は免疫反応によって起こるとされており、関節液の培養は陽性にならないかもしれない。
•MALDI-TOFによる質量分析法や16S rRNA遺伝子配列分析でS. moniliformisの同定が行われるようになった。

【治療】
•ペニシリンG、セフトリアキソンに対して感受性がある。
•5-7日間の点滴静注で改善した場合、アモキシシリン500mg 1日3回内服へ変更可能。
•ペニシリンアレルギーがある場合、ドキシサイクリン 100mg1日2回
•感染性心内膜炎は非常に稀であり、標準的な治療期間は不明である。4週間のペニシリンG静注が基本。人工弁の感染性心内膜炎の患者ではゲンタマイシンの併用も考慮する。
•ネズミ咬傷後は十分に洗浄し、破傷風予防を行う。3日間のペニシリン系抗菌薬の予防内服は有効かもしれない。

【参考文献】
1) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition.
2) UpToDate®︎ Rat bite fever.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育