microbiology round

第35回日本臨床微生物学会総会・学術集会のポスターやHP(https://www.c-linkage.co.jp/jscm2024/index.html)にQRコードがあることにお気づきでしょうか。QRコードを読み込むことで、動物や食品に関連する微生物について知ることができます。

今回、2023/7/27のmicrobiology roundでは、そのうちの一つであるListeria monocytogenesについて取り上げました。

■名前の由来、歴史

  • Listeria:Joseph Lister (英国の外科医”the father of modern surgery”)にちなんで、monocytogenes:monocyte-producing
  • Firmicutes門、Bacilli網、Bacillales目、Listeriaceae科、Listeria属。
  • 1924年にケンブリッジの動物舎で突然ウサギ6匹が死亡した際に、原因微生物としてMurrayにより初めて1926年に報告された。

■微生物学的特徴

  • 通性嫌気性グラム陽性短桿菌で、連鎖を形成することがある。 運動性あり、無芽胞。 大きさは 0.5~2.0×0.4~0.5μm。好気または炭酸ガス条件下で、発育良好。 灰白色・半透明コロニー。35~37℃、24~48 時間の培養で発育する。4℃でも僅かに発育し、6%NaClにも耐性を示す。S. agalactiaeとの鑑別ポイントとして、BTB寒天培地に発育が良好であることが挙げられる。アルコールで脱色されてグラム陰性菌に見えることがある。 生育培地が異なると短桿菌、長桿菌、楕円球菌などにみえることもある。
  • Listeria属には、2023年現在L. monocytogenesを含め30菌種が登録されている。ヒトに感染を起こすのは主にL. monocytogenesである。稀にL. ivanoviiやL. grayiもヒトに感染を起こす。血清型は14種類以上あり、血清型 1/2a、1/2b、4bがヒトの感染症の95%を引き起こし、血清型4bは中枢神経感染・アウトブレイクに関連している。
  • 土壌や水など自然界に広く分布し、動物の糞便や乳から分離される。
  • 細胞内寄生菌であり、体内の粘膜面などを通じてマクロファージで貪食され、貪食後にリステリオン0という毒素によりT細胞受容体の攻撃を避けながら、細胞内で増殖する。細胞表面に移動した後、細胞外に出る際にはfilopodという突起を形成して、次の細胞へ寄生しやすくし、隣接する細胞に直接伝播するという病態が特徴的。細胞内から細胞内へ直接伝播するため、血液脳関門などを抜けて中枢神経系や胎盤を移行して胎児に感染していくと推測されている。

■臨床像

  • ほぼすべての感染症例において、L. monocytogenesは汚染された食品を摂取した後、消化管を通ってヒト宿主に侵入する。胃内では、pHが3未満の際には殺菌作用があるが、3.5になると細菌の生存率が上昇し、4以上でさらに上昇する。プロトンポンプ阻害剤で胃内のpHが上昇すると、非周産期の侵襲性リステリア症のリスクが高まり、胆汁塩加水分解酵素の発現と高塩分条件への耐性により、L. monocytogenesは十二指腸を通過し胆嚢にも定着することができる。
  • リステリアが起こす主要な感染症は2つ
    ① 胃腸炎
    ・一般的に2日間程度で自然治癒する。発熱、水様性下痢、嘔気、嘔吐、頭痛、関節・筋肉痛等の症状を呈する。
    ・潜伏期は、24時間(6時間-10日間)。
    ・便培養の検出感度は低く、診断は困難であり、ルーチン便培養をとる必要はない。
    ② 侵襲性リステリア症
    ・菌血症・中枢神経系感染症(髄膜炎・脳炎・脳膿瘍)・感染性心内膜炎として症状が出現する。妊婦・高齢者・免疫機能が低下している患者(抗癌剤治療中、エイズ患者、糖尿病)は、少量のリステリアでも発症し、重篤な状態(侵襲性リステリア症)になることがあり、死亡例も確認されている。特に、妊婦が感染すると、リステリアが胎盤や胎児へ感染し、早産や流産、新生児死亡をきたしうる。
    ・潜伏期間は平均11日で、症例の90%は28日以内に発症する。

→菌血症

  • 妊婦を除くリステリア菌血症では、免疫不全の患者か高齢者、若しくは新生児であることが多い。
  • 菌血症による死亡率は高く、フランスからのケースシリーズでは3ヵ月間の死亡率は45%であった。
  • 菌血症は新生児にも発症する。早期発症感染症は母体の疾患や早産と関連するのに対し、後期発症新生児は周産期合併症を伴わずに正期産で出生する。早期発症の新生児疾患は高い死亡率と関連している。

→中枢神経感染症

  • 髄膜炎単独での発症は少なく、約84%が脳炎と髄膜炎を合併している。
  • 脳炎は、脳膿瘍に進行することはまれで、頻度は低い。
  • 血行性播種による脊髄膿瘍や脳膿瘍を示すこともある。リステリア感染における中枢神経病変のリスクは、免疫不全患者で最も高い。
  • 中枢神経感染の臨床症状は、発熱と精神状態の変化を伴う軽症から、昏睡を伴う劇症型まで様々で、髄膜炎の症状が軽度で非典型的なことがある。リステリア中枢神経感染症の成人の多くは、髄膜炎の特異的な臨床症状を示さない。リステリア中枢神経感染症の非妊娠患者820人のレビューでは、42%が髄膜刺激徴候を示さなかった。
  • 脳炎はしばしば二相性の経過をとり、頭痛、発熱、吐き気、嘔吐で始まり、数日のうちに脳神経麻痺、運動失調、振戦、その他の小脳徴候、意識低下、そして場合によっては痙攣や片麻痺が起こる。ほぼ半数が呼吸不全を起こす。
  • 髄液所見が典型的な髄膜炎と合致せず、多核球優位のことも単核球優位のこともあり細胞数の増加が乏しいこともある。(非結核性細菌による髄膜炎の中で、リンパ球優位の細胞数増加をきたす細菌の代表)
  • 前述の820人のレビューでは、髄液蛋白濃度はほぼ全例で中等度に上昇し(平均168 mg/dL)、髄液糖は39%で低下した。
  • 髄液のグラム染色は通常陰性のことが多く、髄液培養で陰性であっても血液培養が陽性になることがある。
  • FilmArrayの髄膜炎パネルや血液培養パネルでは、L. monocytogenesのPCRが検出できる。これまでの報告では(N数が少ないが)感度・特異度が比較的高い傾向にある。

→その他の局所的な感染症(稀)

  • 皮膚、腹膜炎、骨・関節、胸膜、心臓、肺炎、胆道、結膜炎

→妊娠中の感染

  • 妊娠中のリステリア症の発生率は、一般集団の約10倍である。
  • 妊娠中のリステリア感染には、発熱を伴う胃腸炎と菌血症が含まれる。妊娠第3期に最も多く診断される。
  • 潜伏期間は、曝露後平均23日(範囲、0~67日)。
  • 発熱、筋肉痛、腹痛、嘔気・嘔吐、下痢など非特異的なインフルエンザ様症状として現れる。
  • 感染した妊婦の転帰は一般的に良好で、治療なしに治癒することもあり、リステリア菌血症の妊婦では、中枢神経系への病変は比較的稀である。
  • 一方で、胎児および新生児への感染は重症化する可能性があり、胎児死亡、早産、新生児敗血症/髄膜炎/死亡に繋がる。
  • 妊娠に関連したリステリア症症例の約20%が、自然流産または死産に至った。
  • リステリア症を発症する妊婦の殆どは、基礎疾患などのリスク因子を持たないことが多い。
  • 血液培養は女性の43~58%で陽性になり、膣培養または子宮頸管培養は26-34%で陽性になる。
  • 米国産婦人科学会は、リステリア菌に暴露した可能性のある妊婦へのマネジメントを記載しており、リステリア暴露の病歴と全身症状(関節痛や消化器症状)と発熱がある患者では血液培養と分娩時の細菌検査(胎盤の培養)を行うことを推奨している。

→新生児リステリア症

  • 感染した母体からL. monocytogenesが胎盤を通して侵入し、絨毛膜羊膜炎、自然流産、死産、早産、新生児感染などの重篤な合併症を引き起こす。
  • 主に敗血症型である早期発症(出生~生後6日)と、髄膜炎を呈すことの多いである後期発症(生後7~28日)の2つの臨床像が存在。
  • 一般的ではないが、3つ目のプレゼンテーションとして乳児敗血症性肉芽腫症がある。乳児性敗血症性肉芽腫症early-onset同様、子宮内で経胎盤的に感染したのち発症する。乳児敗血症性肉芽腫症は、出生時に、肝臓や脾臓、時には皮膚に広範な微小膿瘍や肉芽腫がみられ、糞便のグラム染色で細菌が検出される、急速な経過で致死的な状態に至る播種性感染症である。

→→Early-onset neonatal listeriosis
早期発症の新生児リステリア症は、早産など分娩異常と関連していることが多く、新生児死亡率が高いことが特徴である。早産、絨毛膜羊膜炎、および菌血症、肺炎、髄膜炎のいずれか1つまたは組み合わせの診断と関連している。過去のケースシリーズでは、早期発症の新生児リステリア症100症例のうち20.2%が肺炎、25.5%が菌血症、29.8%が菌血症+肺炎、9.6%が菌血症+髄膜炎、5.3%が髄膜炎、5.3%が菌血症+髄膜炎+肺炎であった。

→→Late-onset neonatal listeriosis
遅発性新生児リステリア症発症する新生児は通常満期産であり、出生時は健康で、合併症のない妊娠をした無症状の母親から出生する。感染様式は不明であるが、膣管または母親の消化管からの接種、院内感染が感染経路となる可能性が考えられる。

☆分娩異常-早産 -early onset neonatal listeriosis- 高い死亡率・有害事象

  • 母体-新生児リステリア症が証明された母親から生きて生まれた189例のProspective study。
    -189例中133例(70%)に出生時の臨床状態に異常が認められ、早期発症リステリア症を発症した乳児は132人(70%)、晩期発症リステリア症を発症した乳児は12人(6%)であった。
    -189例中17例(9%)に重大な有害転帰が認められたいずれもearly-onset infection群であった。3%(5人)が死亡、6%(12人)が重度の脳損傷、2%(3人)が重度の気管支肺異形成をきたした。
    -その17例中15例が、妊娠34週未満で出生した(P<0.001※妊娠34週以上と比較)。
    →新生児の転帰の主な決定因子は、出生時の妊娠週数であった。

■治療

  • リステリア感染症に対する抗菌薬に関するRCTは存在せず、観察研究とin vitroの研究からのデータ。

<非妊娠患者>
◎侵襲性リステリア感染:中枢神経感染(脳炎・髄膜炎) and/or 菌血症
第一選択: アンピシリン(ABPC)またはペニシリンG(PCG) + ゲンタマイシン(GM)

  • シナジー目的のGM併用の効果についての評価は定まっていない。症状改善傾向なら 1~2週間で併用中止して良く、腎機能悪化あれば中止検討する。
  • dexamethasoneは予後の悪化と関連しているため、経験的治療(肺炎球菌性髄膜炎カバー想定)として開始した後に原因微生物がリステリアだと判明した場合は、dexamethasoneを中止する。
  • 菌血症の場合、免疫正常者では少なくとも2週間、免疫不全患者では少なくとも3~6週間治療する。稀に心内膜炎がある場合は、通常4~6週間抗生物質を投与する。
  • 中枢神経系感染症に対しては、免疫正常者では少なくとも3~4週間、免疫不全患者では少なくとも4~8週間治療する。脳炎または脳膿瘍の患者に対しては、通常、少なくとも6~8週間という長期間の治療が必要である。

第二選択:

  • ST合剤
  • メロペネム(MEPM) (※MEPM群はABPC群と比べて死亡率が高かったとの報告がある)
  • リネゾリド(LZD)やリファンピシン(RFP)も有効だが、データは限られている。
  • セファロスポリン系、バンコマイシン、キノロン系、テトラサイクリン系はこれまでの臨床試験で治療失敗に関連していたことから、使用しない。

◎胃腸炎:

  • 免疫正常の65歳以下の患者では通常抗菌薬治療は行わない。免疫不全の患者や65歳以上の場合、ABPCまたはS/T合剤を7日間投与する。

※ST合剤使用時の注意点:妊娠初期では神経管や心血管の異常をきたす可能性があり、妊娠後期では核黄疸をきたす可能性がある。また生後2ヶ月までは同じく核黄疸のリスクあり、使用は推奨されていない。

<妊娠中の患者>

  • リステリア菌に感染したと推察され、関連する症状および38℃を超える発熱がある妊娠患者に対しては、代替疾患が判然としない場合、抗菌薬(ABPC)の投与が推奨される。

■予防
一般的な推奨事項

  • 生野菜や果物はよく洗う。
  • 未調理の食品を扱った手、器具、まな板を洗う 。
  • すぐに食べる食品は冷やしておく。ただし、リステリアは冷蔵庫内でも増殖するので、食品は期限内に(開封後は速やかに)食べるよう心がけることが予防につながる。また、リステリアは加熱により死滅するので、加熱して食べることも予防策である。

高リスク群:(妊娠中の女性、免疫不全者(臓器移植、ステロイドの慢性的な使用、インフリキシマブなどの TNF-α阻害薬、抗癌化学療法、高齢者)では特に下記に留意する。

  • チーズや低温殺菌していない乳製品を摂取することで感染するため、これらを避ける。
  • チーズには水分含有量に応じて種類があり、ハード・セミハード・ソフトチーズと区分され、リステリアはソフトチーズ(メキシカンスタイル、ブリー、カマンベール、ブルーチーズ)に関連していることが多い。
  • 缶詰や保存可能な製品以外のスモークシーフード、冷蔵の肉のパテ、加熱処理されていないホットドッグも同様にリスクがあるため、これらの摂取避ける。
  • ・デリカテッセンでの食事は、避けたほうが望ましい。

※注:上記は欧米で推奨されている事項であり、日本国内で扱われている食品ではリスクは低いと思われます。しかし、日本国内でも同様に注意すべきと思われます。

(参考分献)

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育