microbiology round

本日のmicrobiology roundは、Lactococcus garvieaeについて取り上げました。
弁膜症を基礎疾患にもつ高齢男性が、Lactococcus garvieaeによる感染性心内膜炎(自然弁)、右大腰筋膿瘍、椎間板炎を来した症例でした。

■名前の由来、歴史

  • Lacto="milk"、coccus=球菌、Garvieae=E.I. Garvie(イギリスの微生物学者)。分類:Bacillota 門、Bacilli 網、Lactobacillales目、Streptococcaceae科、Lactococcus属。
  • 1981年にGarvieらによって⽜の乳房炎の起因菌として最初に同定された。その後、1983年に "Streptococcus garvieae"とCollinsらによって報告され、さらに1985年にSchleiferらにLactoccoccus属に再分類された。

■微生物学的特徴

  • L. garvieae は、様々な環境条件(水生・陸生動物、河川や下水、様々な食品や飼料内)で生存でき、ウシ、魚類、 ヒトから分離される人獣共通感染症の起因菌である。特に魚類の主要なグラム陽性球菌病原体である。魚類の病原体であるEnterococcus seriolicidaは、L. garvieaeの同型同義語(L. garvieaeと分類されるべき菌)である。臨床材料から分離されるLactococcus属には、L. garvieaeの他にLactococcus lactis が含まれている。
  • L. garvieaeは、Lactococcus属に属するグラム陽性球菌で、単球菌、双球菌、あるいは短鎖連鎖状からクラスター状。莢膜を有する場合がある。血液寒天培地上のコロニーは小さく白色で、α溶血(非溶血)、カタラーゼ陰性である。初代分離株は、β溶血性を示すコロニーも観察される。
  • レンサ状球菌であるEnterococcus属やStreptococcus属と形態学的、および⽣化学的性状がよく類似している。

(同定検査)

  • 生化学的性状に基づく同定検査が、L. garvieaeの同定に有用である。通常は良好な結果を示すが、一部のL. garvieae分離株はL. lactisやEnterococcus属と誤同定される。
  • Lactococcus属は、Enterococcus属と混同されやすい。Lactococcus属(L. garvieaeとL. lactis)は45℃で発育しないが、Enterococcus属は45℃で発育する。マトリックス支援レーザー脱離イオン化方式飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF MS)は一部のLactococcus属の同定に役立つ。臨床材料から分離されるL. garvieaeとL. lactisの鑑別には、クリンダマイシンの感受性(L. garvieae: 耐性、L. lactis:感性)が有用である。その他、養殖業における利用を目的として、L. garvieaeに特異的なプライマーを用いたPCRによる検出方法が報告されている。

■臨床像

  • ヒトに対して病原性を持つLactococcus属としては、L. lactisとL. garvieaeの2菌種が知られている。
  • ヒトに対する病原性は低く、⽇和⾒病原体と考えられているが、この細菌によるヒト感染は過去10年間に増加している。(MALDI-TOF MSの同定法の向上や、臨床的意義の認識が⾼まったことが関係しているかもしれない)。
  • ヒトにおけるL. garvieaeの感染源、感染経路はよく分かっていないが、汚染された生の魚介類との接触が最も可能性の高い感染源であると考えられている(報告された症例の約半数は、⽣⿂への曝露歴がある)。
  • 感染性心内膜炎(24例)の報告が多く、他に菌血症(8例)、尿路感染症(5例)、腹膜炎(3例)、肝膿瘍(1例)、骨髄炎(1例)、人工関節感染症(1例)、胆嚢炎(1例)、髄膜炎(1例)の報告がある。
  • 感染性心内膜炎の7例のうち5例が、心血管系の素因(僧帽弁閉鎖不全症など)があった。

■治療

  • L. garvieaeは、クリンダマイシンに耐性(これでL. lactisと区別する)。
  • L. garvieaeに対する確立されたブレイクポイントは、設定されていない。ヒトでは、L. garvieaeによる感染症の治療はレンサ球菌感染症と同様であることから、⼀般的に連鎖球菌に対して推奨されているブレイクポイントが使⽤される。
  • 抗菌薬耐性遺伝子の存在や変異と関連して、テトラサイクリンとエリスロマイシン(tet [M]またはtet [S])、キノロン(gyrAとparCのpoint mutations)に対する感受性の低下の頻度が高いことが知られている。

(Lactococcus garviaeによる感染性心内膜炎)

  • L. garvieaeによる感染性心内膜炎の25症例のうち、58%が男性で、発症年齢の中央値は68歳。受診前の症状持続期間の中央値は14⽇(6.2~21⽇)。最も⼀般的な症状は発熱(68%)と悪寒(28%)、⾝体所⾒で最も多かったのは心雑音(72%)。致死率は16%であり、黄色ブドウ球菌(44.4%)、腸球菌(23%)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(33.4%)などの他のグラム陽性球菌と比較すると低いが、連鎖球菌(15.7%)と同程度。L. garvieaeは人工弁を持つ患者に頻繁に感染するようである(52%)。
  • 生の海産物の摂取や魚への暴露、⼤腸ポリープ、乳製品への暴露は危険因⼦。

(参考分献)

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  6. Schleifer, Karl Heinz et al. “Transfer of Streptococcus lactis and related streptococci to the genus Lactococcus gen. nov.” Systematic and Applied Microbiology 6 (1985): 183-195.
  7. Manual of clinical microbiology.
  8. CLSI MM18 Interpretive Criteria for Identification of Bacteria and Fungi by Targeted DNA Sequencing.
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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育