microbiology round

本日のmicrobiology roundはMycobacterium intracellulareについて取り上げました。
今回の症例は末期の急性骨髄単球性白血病の70代男性で、アザシチジンとベネトクラクス投与中に、2か月前から好中球減少症が持続している状況下で、2週間前から明らかなフォーカスのない発熱があり、その際の血液培養2セット中2セットからMycobacterium intracellulareが発育しました。

■名前の由来、歴史
Mycobacterium intracellulareは1949年にNocardia intracellulareとして初めて報告され、その後、1965年にMycobacterium intracellulareとして再登録された。
・"myco":ギリシャ語「キノコ」の借用語でカビ fungus やロウ wax の意味
・"intra":「内部、内側」、"cellura":「小部屋、蜂の巣、小細胞」、"-are":「関連する」こと表す接尾語

■微生物学的特徴
環境中に広く生息し、土壌や水、動物から発見される。
偏性好気性グラム陽性桿菌。長さ1-4 μm、幅0.3-0.6 μmでやや湾曲~真っ直ぐな桿菌で、Y字状に観察されることもある。芽胞や鞭毛、莢膜はない。細胞壁にミコール酸と呼ばれる脂質を大量に含有するため、グラム染色では染色性が悪い。顆粒状に部分的にグラム陽性に染まる、またはガラス片上に抜けて見える(=「Gram Ghost」)。抗酸菌は一度染色されると酸やアルコールに脱色されにくく(=抗酸性)、チールニールゼン染色と蛍光染色が有用。
抗酸菌の中で遅発育抗酸菌のⅢ群(非光発色菌群)に分類され、小川培地で発育するまで2-3週間かかる。

■臨床像
大きく 2つのタイプに分ける。
1.肺疾患:免疫正常だが、高齢者+呼吸器疾患(気管支拡張症、慢性閉塞性肺疾患など)や、若年者では嚢胞性線維症を背景に持つことが多い。
2.肺外疾患(多くは播種性疾患):多くはHIV(特にCD4<50 /mm3)・悪性腫瘍・自己免疫疾患・免疫抑制剤(特に抗TNF-α阻害薬、ステロイドなどの細胞性免疫が低下する薬剤、INF-γ抑制剤)使用など重度の免疫不全を持つ。他には免疫正常の小児(5歳以下)の局所のリンパ節炎もある。 播種性疾患は通常、発熱、体重減少、食欲不振、寝汗があり、特にHIV患者の場合には、抗酸性血液培養で陽性になりやすい。臓器特異的な症状や徴候としては、骨髄病変であれば貧血や好中球減少、リンパ管病変であればリンパ節腫脹や肝脾腫、消化管病変であれば下痢・腹痛・肝腫大・肝逸脱酵素上昇、肺病変であれば咳嗽や lung infiltratesなどを起こす。

■診断
肺疾患の診断:1.肺MAC症に矛盾しない下気道もしくは全身症状、2.肺MAC症に特徴的な画像所見、3.MACの細菌学的な証明、4.他の疾患(特に結核)の除外が必要。
・放射線:胸部 X 線で結節影または空洞性陰影、または high resolution CTで気管支拡張を伴う複数の小結節。
・細菌学的な証明:①2回の別々の喀痰サンプルから同じ菌が陽性、②気管支洗浄培養で1回陽性、または③気管支生検または肺⽣検でMycobacteriaの組織学的特徴(肉芽腫性炎症またはAFB)で培養陽性。

■感受性
当施設では、感受性はCLSI M62に基づき実施している。薬剤耐性キットは結核菌用、結核菌以外の遅発育菌用、迅速発育抗酸菌用の3つがある。pH 7.3-7.4のミュラーヒントンブロスを使用し、遅発育菌の場合には5%OADC(オレイン酸、アルブミン、デキストロース、カタラーゼ)を追加混合し、7日目にMIC判定を実施している。

■治療(肺MAC症の場合)
肺MAC症では、必ずしも診断時点で直ちに治療を開始する必要はない。治療の利益・不利益を考慮し、症例毎に判断する。空洞性肺病変がある場合には、治療が推奨される。
治療においては、宿主の免疫状態や抗菌療法に対する宿主の認容性が重要である。他のMycobacteriaの治療と同様で複数の薬剤(基本的には3剤、最低でも2剤)での治療を行う。播種性疾患の死亡率は非常に高く、積極的な治療と免疫抑制状態の解除が必要になる。(→マクロライド系薬は単剤で⽤いると耐性になり易いため、決してマクロライド単剤治療をしてはならない)
マクロライドに感受性のある肺MAC症では、マクロライドを含む3剤併用療法(多くはアジスロマイシンとエタンブトール、リファンピシン)が推奨される。これは、マクロライド系がin vitroでMACに対する高い活性を有すること、臨床的な効果の相関性が示されているin vitro薬剤感受性検査はマクロライドのみであることが理由として挙げられる。中でもアジスロマイシンは少ない薬剤相互作用、リファンピシンによる影響が少ない、1日1回投与である点からクラリスロマイシンより好まれる。以前にマクロライド(特に単剤治療)曝露がなければ、99%のMAC菌株はクラリスロマイシンまたはアジスロマイシンに感受性を持つ。エタンブトールは、HIV/AIDSの播種性MAC症に対して抗酸菌血症を減らすと示されていることから、2番目に大事な薬剤とされる。3番目のリファンピシンは vitroで活性を有しており、肺MAC症または播種性MAC症に対して追加するとアウトカムが改善する。4番目にはアミノグリコシド、特にアミカシンが臨床的なアウトカムを改善するとされる。

■予防
HIV感染者では、抗レトロウイルス療法(ART)を受けていない、またはARTを受けてもウイルス血症が持続しているが完全に抑制できるARTレジメンの現在の選択肢がない場合で、CD4数が50 cells/mm3未満の際には、播種性MAC症に対するアジスロマイシン(またはクラリスロマイシン)での予防が推奨されている(※CD4数が50 cells/mm3未満でも直ちにARTが開始できる場合には、推奨されていない)。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育