microbiology round

本日のmicrobiology roundは通称モルモルことMorganella morganiiさんを取り上げました。モルモルさんは感染症科界隈ではコリスチンとチゲサイクリンが効かない菌として有名です。
切除不能膵癌に対する化学療法を開始後に発熱を認めました。採血では好中球数は500/μL以上認めていましたが、AST、ALT、ALP、γGTP、直接ビリルビンが上昇していました。CTでは胆管拡張は明らかではありませんでしたが背景疾患、採血結果から胆管炎と判断されピペラシリンタゾバクタムで治療が開始されました。治療開始時に採取された血液培養2セット中1セット(好気ボトル16時間、嫌気ボトル11時間)が陽性となり、Gram染色では腸内細菌目細菌を推定するグラム陰性桿菌を認めました。分離培養は血液寒天培地、BTB寒天培地、クロモアガーmSuperCARBA/ESBL分画培地を用いました。翌日、血液寒天培地とBTB寒天培地に発育を認め、クロモアガーmSuperCARBA/ESBL分画培地には発育を認めませんでした。MALDIバイオタイパーを用いた同定検査でM. morganii(スコア2.45 A)と同定されました。
その後MRIで肝臓に微小な多発肝膿瘍を認めました。胆道系評価、ドレナージ目的に内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査が行われ総胆管内に微小胆石を認め、結石性胆管炎からの肝膿瘍と診断しました。M. morganiiはセフトリアキソンに感性であり、肝膿瘍もあることからBacteroides属のカバーも合わせてセフトリアキソン、メトロニダゾールで治療を行っています。

■名前の由来、歴史
H. De R. Morgan イギリスの細菌学者
1906年にH. De R. Morganが小児の下痢症の起炎菌として報告された。

■微生物学的特徴
ヒトの感染症を起こすのはMorganella属のM. morganiiです。一方、M. psychrotoleransは魚類に感染症を起こします。
Morganella属の菌はヒトや動物の腸管から検出される常在菌で、土壌や水などの環境にも分布しています。
通性嫌気性のグラム陰性桿菌です。
オキシダーゼ陰性、カタラーゼ陽性です。
コロニーは約1μmで寒天培地上ではoff-whiteで不透明です。
鞭毛をもち運動性が認められますが、Proteus属のようにすウォーミングは認められません。
芽胞や莢膜は認めません。
M. morganiiは乳頭非分解のため寒天培地のpHはアルカリ性に傾きBTB培地では深緑色、マッコンキー寒天培地では透明のコロニーを形成します。
腸内細菌目細菌の中でProteus属、Morganella属、Providencia属だけがIPA(indol pyruvic acid)反応が陽性です。
TSI培地ではM. morganiiはブドウ糖を発酵し乳糖・白糖非分解し、斜面部が赤、下2/3の高層部が黄色になります。P. mirabilisも同様にブドウ糖を発酵し乳糖・白糖非分解ですが硫化水素を産生するため黒色に変化しています。

■臨床像
院内感染、市中感染どちらも起こします。
尿路感染症が最も多く結石性腎盂腎炎やカテーテル関連尿路感染症を起こします。
外傷後や術後創部感染などの皮膚軟部組織感染症、ついで肝胆道系感染症が多いです。
他には下気道感染症、腹腔内感染症、髄膜炎、骨髄炎、化膿性関節炎、眼内炎、新生児敗血症、絨毛膜羊膜炎などの報告があります。
菌血症の場合には3割で複数菌感染症です。

■感受性、治療
染色体性にAmpCの遺伝子を持ちアンピシリン、第1,2世代セフェムに対しては自然耐性です。
AmpC過剰産生が誘導されることはありますが、EnterobacterやCitrobacter程は多くないです。
Kohlmann R, Bähr T, Gatermann SG. Species-specific mutation rates for ampC derepression in Enterobacterales with chromosomally encoded inducible AmpC β-lactamase. J Antimicrob Chemother. 2018 Jun 1;73(6):1530–6.
感性であればセフトリアキソンなどの第3世代セフェムで治療可能な場合がありますが、感染性心内膜炎や中枢神経感染症など感染源のソースコントロールが限られる場合にはセフェピムによる治療を検討します。
コリスチンやポリミキシンBには自然耐性、チゲサイクリンは他の抗菌薬とin vitroで相乗効果を示すことがありますが排出ポンプのため効果の確実性はありません。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育