施設内のインフルエンザoutbreakにおける抗ウイルス薬の予防内服
施設内のインフルエンザoutbreakにおける抗ウイルス薬の予防内服について、ガイドラインをもとに、まとめてみました。
★IDSAガイドライン:施設内outbreak時の対応
- Clin Infect Dis. 2018 Dec 19. doi: 10.1093/cid/ciy866. [Epub ahead of print](推奨48-58)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30566567 - 以下、特に重要なものを抜粋
- 48:医療施設または長期療養施設にて、検査で確定したインフルエンザが1例発生した場合は、早急にactive surveillanceを行うべきである
- 49:同じ病棟またはunitの患者または入居者で、72時間以内に2例インフルエンザを発症した患者(laboratory-confirmed)が出た場合、outbreak control策を早急に施行すべきである
- 51:インフルエンザのoutbreakが起こっている施設または病院において、一つ以上の急性気道症状が出現した場合(発熱の有無は問わない)、気道症状がなくても体温上昇または体温低下または行動の変化(behavioral change)がみられた場合は、インフルエンザの検査を行うべきである
- 53:インフルエンザのoutbreakが起こっている施設または病院では、インフルエンザと確定診断された、または、疑いのある者に曝露した入居者または患者は、ワクチン接種状況に関わらず、早急に抗ウイルス薬を内服すべきである
- 54:抗ウイルス薬の予防内服は、outbreakしているunitごとで行い、施設全体では新規症例がないかactive surveillanceを行うべきである
- 55:ワクチン接種をしていないスタッフへの抗ウイルス薬の投与は考慮される
- 56:ワクチン接種がoutbreak前14日以内のスタッフへの抗ウイルス薬の投与が考慮される
- 57:スタッフ数が少ない施設では、ワクチン接種状況に関わらず、スタッフへの抗ウイルス薬の投与が考慮される(人員不足を防ぐため etc)
- 58:抗ウイルス薬の予防内服は、14日間、かつ、最終発症患者の症状出現から7日以上継続すべきである
★施設内outbreak時に予防的抗ウイルス薬のまとめ
- nursing homeにおけるoutbreakに対してオセルタミビル予防内服の効果はある可能性が高い
- outbreakの定義は研究によって様々:7日以内に10%以上が罹患 or 7日以内に3例が発症(ただし1例は検査で確定必要) etc. ※ガイドラインでは72時間以内に2例としている
- 予防的治療:オセルタミビル 75mg/日 or ザナミビル 10mg/日
- 検討されている予防投薬の期間は、7-14日間がほとんど
- アマンタジンの研究では、14日以上かつ最終発症日から7日間(ガイドラインで採用)
- アマンタジンは耐性化が進み、現在では使用されない(効果も期待出来ない)
- 基本的に入居者が対象のようだが、研究によっては職員も対象としている(→状況に応じて、職員も抗ウイルス薬の内服を検討する)
- インフルエンザワクチン接種率は、低い報告と高い報告があるが、いずれの場合でも予防内服の効果はある可能性が高い
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★ガイドラインの元文献のメモ
1. Arch Intern Med 1998;158:2155-2159
- インフルエンザoutbreaklに対してアマンタジン予防内服の効果を評価したRCT
- 対象:nursing home(入所者のみなのか、スタッフも含めているのか不明)
- outbreakの定義:同じ建物のどこかでウイルス培養でインフルエンザと診断された患者が1人がでた7日以内に、1つのユニットで10%以上の入所者が新しい気道症状を呈した場合をoutbreakと定義
- 使用薬剤:アマンタジン or rimantadine
- 14日間以上かつ最終発症から7日間 vs 21日間以上かつ最終発症から7日間
- 3シーズンで研究、1シーズンだけ14 or 21日を越えて予防投薬(∵アマンタジン耐性インフルエンザ)
- 両群で結果は同等(どちらの群でもoutbreakは投薬終了時点で収束した)
- スタッフの40%、入所者の90%弱がインフルエンザワクチン接種していた
2. J Am Geriatr Soc 2002;50:608-616
- インフルエンザoutbreakに対してオセルタミビル予防内服の効果を評価したcase series
- outbreakの定義:よくわかりませんでした
- 10か所のlong term care facilityで施行
- すべてのoutbreakはインフルエンザA/H3N2
- 発症者は、オセルタミビル治療量で5日間、症状がない人は、オセルタミビル予防量中央値9日間
- オセルタミビル予防内服開始10日目からは1例も発症していない
- 5つの施設では、アマンタジンの予防内服によるoutbreakのcontrolに失敗→オセルタミビルに変更
3. J Am Med Dir Assoc 2005; 6: 367-374
- nursing homeにおけるインフルエンザoutbreakに対するザナミビル吸入の効果を評価したRCT
- outbreakの定義:同じ建物のどこかでウイルス培養でインフルエンザと診断された患者が1人がでた7日以内に、1つのユニットで10%以上の入所者が新しい気道症状を呈した場合をoutbreakと定義
- 無症状者にザナミビル14日間吸入 or placebo
- 検査で確定したインフルエンザの発症が70%減少した
- ワクチン接種歴のある参加者は9%
- 対象者は、residentsのみのはず
4. J Am Med Dir Assoc 2005; 6: 359-366
- nursing homeでのインフルエンザoutbreakに対するザナミビル吸入の効果を評価したRCT
- outbreakの定義:同じ建物のどこかでウイルス培養でインフルエンザと診断された患者が1人がでた7日以内に、1つのユニットで10%以上の入所者が新しい気道症状を呈した場合をoutbreakと定義
- 対象は、nursing home residents
- ザナミビル10mg/日吸入 14日間 or placebo or rimantadine
- 対象者の90%以上がインフルエンザワクチン接種済み
- 症候性の検査で確定したインフルエンザは61%減少
5. Journal of Hospital Infection 2008;68:83-87
- nursing homeでのインフルエンザoutbreakに対するオセルタミビルの予防効果を評価した観察研究
- outbreak:職員 14名中7名、入所者 41名中14名が、インフルエンザ様疾患またはそのほかの気道症状呈する疾患を発症→その後のオセルタミビルの治療+予防投与についての効果を検討
- 対象は、nursing homeの入所者とstaff
- 症状がある場合はオセルタミビル治療量5日間、無症状の場合はオセルタミビル75mg/日 7日間
- 予防内服した対象者すべてで、インフルエンザ様疾患は発症しなかった
- ただし42人中12人で、インフルエンザウイルスは検出されている、9名で気道症状(のみ)があった
6. Emerging Themes in Epidemiology 2014;11:13
- nursing homeでのインフルエンザ曝露後オセルタミビル内服の効果を評価したRCT
- outbreakの定義:インフルエンザ様疾患と診断された患者のいるunitでインフルエンザ様症状があってウイルス学的にインフルエンザと証明された患者が1名以上出た場合
- 17のoutbreakのうち15はA/H3N2、2つはB型
- この研究は、15のoutbreakを対象としている
- 6つはオセルタミビル75mg/日 10日間、9つはplacebo
- 差はなかった
- ワクチン接種率は80-100%程度
7. Infection 2015;43:73-81
- nursing homeでのインフルエンザoutbreakにおけるオセルタミビル予防内服の効果を評価した研究
- outbreakの定義:
1つのフロアで48時間以内に2人以上の入所者が急性呼吸器感染症を発症した状況 - 3つの群(3施設)にわけて評価
- 1群:すべての入居者にオセルタミビル75mg/日 10日間
- 2群:直接曝露のあった入居者にオセルタミビル75mg/日 10日間
- 3群:予防なし - 急性気道感染症と入院は、1群でもっとも少なかった
- outbreakの期間も1群でもっとも短かった(8日 vs 14日 vs 12日)
- ワクチン接種は、すべての入居者と職員に推奨された
8. PLoS ONE 7(10): e46509. doi:10.1371/journal.pone.0046509
- aged care facilityでのインフルエンザoutbreaklにおける治療 vs 治療+予防(オセルタミビル75mg/日 10日間)を比較したRCT
- outbreakの定義:インフルエンザ様疾患(ILI)outbreakは、3日間でILIが2例 or 7日間でILIが3例、インフルエンザoutbreakは、ILI outbreakかつ1例は検査でインフルエンザと確定診断
- 対象は、入居者と職員
- 治療+予防の群で、入居者におけるインフルエンザattack rateとoutbreak期間が短縮した
- ワクチン接種率は入居者85%弱、職員35-50%
施設内outbreakや院内outbreakが起こっている施設は多いと思われます。各施設のruleに従って予防内服の適応を決定していただくのがよいですが、上記が参考になれば幸いです。
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育