ゾフルーザ採用見送りの経緯

googleで「ゾフルーザ」を検索すると、2018年12月11日午後7時現在、4番目に当科のブログ「ゾフルーザ採用見送り」が、検索されます。多くの方々の興味のあるところなのだと思います。

実は、当院では「ゾフルーザ採用どうする?」などという議論はほとんどなく、どこからも採用希望もなく、一部で「まあ今年は採用しなくてもよいよねー」くらいの感じで話が進み、採用しないことになりました。
Facebookやブログでも述べましたように、あえて理由として挙げるなら(1)今までのエビデンスの蓄積(オセルタミビル)、(2)ゾフルーザ(バロキサビル)の耐性化のリスク、(3)コスト、のため、採用見送りました。
1回投与のメリット、ID weekで基礎疾患ある人に対するインフルエンザ患者に対して効果を認めたこと、などから、有用性がかなりあることは確実なのですが、今後の経過(耐性ウイルス問題など)をもう少し経過をみてもよい、と思っています。
あと、実は(?)、もっとも重要な点としては(これは以前のブログには掲載していません)、そもそも抗ウイルス薬必要なのか、という点です。
当院では、院内ガイドラインの通り、治療が推奨されている5歳未満、基礎疾患あり、65歳以上、の場合しか、そもそも処方していません。ここ重要ですよ!ただし、これらの該当しない人でも、約1日は解熱が早まりますので、デメリット(嘔吐5%弱)も踏まえて、きちんと説明して、患者さんに内服するかどうか決めていただいています。実感としては、ほぼ80%くらいの人が、「じゃあタミフルはいりません」と言って、アセトアミノフェンのみで帰宅されます。
土地柄もあるのだと思いますが、きちんと説明すれば、医学的に必須ではない抗ウイルス薬を希望する患者さんは少ないのかもしれません。
説明する内容としては

  • 抗ウイルス薬の有効性
  • 抗ウイルス薬の副作用
  • 今後の典型的な経過
  • 具体的に、○○の場合は、再診してください

などです。これらは、抗ウイルス薬を処方するときも、しないときも、まったく同じ説明をしています。

これと同じことが、風邪や気管支炎などのウイルス感染症に対する抗菌薬処方、についても同じことが言えると思います。当院では、いわゆる風邪・A群レンサ球菌以外による咽頭炎、急性気管支炎に、抗菌薬は処方していません。どういうわけか、抗菌薬希望、という主訴で来院する患者さんもほとんどいません。3年間総合内科外来と感染症外来を週2回やっていて、1度も抗菌薬希望、の患者さんに遭遇したことがありませんし、第3世代セフェム系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬を処方したこともありません。かわりにきちんと説明することが大切だと思っています。かぜ診療に興味をお持ちの方は、AMRレファレンスセンターの「かぜ診療ブラッシュアップコース」などへの参加もよいと思います(http://amr.ncgm.go.jp/information/)。やはりきちんとした説明が重要だと思います。

ちなみに私が以前働いていた病院は、抗インフルエンザ薬をじゃんじゃん処方する病院でした(ただし、風邪や気管支炎には抗菌薬処方はしていませんでしたし、院内採用の第3世代セフェムは1種類まで絞っていて、ほとんど処方されていませんでした)。当院に赴任してから、「ちゃんと説明すれば、わかってもらえるし、ちゃんと思いを聞けば、抗ウイルス薬を必ずしもほしがっている人ばかりではないんだ」ということがわかりました。忖度せずに、きちんと患者さんと向き合うことが大切なのだと考えています。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育