第3回亀田感染症セミナーin東京の質問への回答(講義4)

「第3回亀田感染症セミナーin東京」で頂いた質問への回答です。たくさんの質問をありがとうございます。

講義4:カテーテル関連血流感染症

Q1:血液培養採取の際、今の病院では、イソジン消毒を勧められるが、大学病院ではアルコール綿でした。アルコール綿を使うほうが良いのでしょうか?
A1:アルコール綿でもポピドンヨードでも構いませんが、最初にアルコール綿でよく採血部位をこすって汚れや皮脂を落とすと良いと思います。その上で、新しいアルコール綿、あるいはポピドンヨードでもう一度消毒します。カテーテル挿入時のデータでは、クロルヘキシジンアルコールが最も感染率が低いので、当院では血培採血の際もクロルヘキシジンアルコールを推奨しています。

Q2:複数ルーメンの中心静脈カテーテルのCRBSIが疑われる時、各ルーメンで採取する必要はあるのでしょうか?
A2:2つ以上のルーメンから採取の場合には、血液培養の定量培養で一方のコロニー数が他方の3倍以上ならば、おそらくCRBSIを示唆(IDSAガイドライン: Clin Infect Dis 2009;49:pp1-45)と記載がありますが、血液培養の定量培養をしている施設はほとんどないと思われます。
マルチルーメンカテーテルで、一つのルーメンからしか採血しないとCRBSIを見落とす率が上がるとの報告があります。(Guembe M, Rodri?guez-Cre?ixems M, Sa?nchez-Carrillo C, Pe?rez-Parra A, Marti?n-Rabada?n P, Bouza E. How many lumens should be cultured in the conservative diagnosis of catheter-related bloodstream infections? Clin Infect Dis.2010;50(12):1575-1579)。しかし全てのルーメンからルーチンで採血することは手間とコストがかかるので、バランスを考えて提出します。出来るだけルーメンの少ないカテーテルを使用することに努めると良いと思われます。

Q3:S-Gカテ、IABP、透析カテetc 長いカテーテルでも、培養は先端を出すのでしょうか?出すならばどの部位が良いのでしょうか?
A3:カテーテルの一部が培養に提出された場合は、カテーテルの先端のみを培養するのみて?十分て?あり、カテーテルの皮下部分を培養する必要はない という記載されています。先端5cmを切って提出することが推奨されています。 (IDSAガイドライン: Clin Infect Dis 2009;49:pp1-45)

Q4:カテーテルを抜くときには、穿刺部位を消毒してから抜いた方が良いか?(抜去時に表皮の菌がつくかどうか)
A4:酒精綿で刺入部周囲を消毒してから、カテをおさえないで抜きます(酒精綿でカテーテルを拭ってしまうと、消毒されてしまうため)。

Q5:カテ先培養は、嫌気ポーターで出すことが多いが、普通の滅菌スピッツではいけないか?
A5:提出は普通の滅菌スピッツでよいです。

Q6:CRBSIを疑っている症例で腸内細菌科細菌が検出された場合、感染フォーカスがCRBSIであることが多いのか?
A6:他の感染巣がどのくらい「らしいか」によります。実際の頻度は尿路感染、胆管炎などの方が多いので、それらでなさそうな時、「CRBSIかも知れない」と考えます(感染巣の不明な菌血症の鑑別)。診断のつく方法で培養が出せていれば(DTPを用いて)、確定できる可能性があります。少なくともカテーテル先端培養で陽性であれば、カテーテルは一つのフォーカスと考えて良いと思われます。

Q7:治療期間は、「例外」の菌を含め、全て陰性化を確認してから治療期間をカウントか? 
A7:CRBSIの場合は、全ての菌で(どんな菌種でも)、血液培養の陰性化確認が必要です(治療期間決定のため)。

Q8:「抗菌薬ロック」のevidenceは?
A8:当日スライドでお示ししましたが、IDSAガイドライン(Clin Infect Dis 2009;49:pp1-45)中に、抗菌薬ロックについて記載があります。抗菌薬全身投与と必ず併用すること、「ロック」なので、その間感染しているラインは(抗菌薬投与以外には)使用できないこと、など、非常に煩雑・不便になり、「どうしても温存したい場合」に適応は限られると思います(悪性腫瘍で予後の限られた方のCVポート感染、など)。

Q9:CEZ+VCMで治療を開始する場合はありますか?CEZ+VCMで治療開始することの有益性はあるのでしょうか?
A9:IEを考えた時、重症な場合には、2剤の併用で治療を開始します。MSSAに対する初期治療の成績はVCMのほうが劣るので、重症感染症の時にはCEZ+VCMが良い可能性がありますが 、具体的な比較試験のエビデンスはありません。 (Clin Infect Dis 2013;57:1760-5)。AHAのIEのガイドラインではStaphylococcusのIEで感受性がわかるまではこの組み合わせで治療することを明確には推奨していませんが、実際に行われている治療であると記載しています。

Q10:(症例についての質問)化膿性血栓性静脈炎の治療(E. aerogenes)をなぜCFPMで行ったのでしょうか?
A10:E. aerogenesでAmpC過剰産生菌であることを懸念してです。文献によっては、Enterobacterの治療を第3世代セフェムで行わないように勧めているものもあります(AmpCの誘導のため使用中に耐性となる可能性がある)。本例ではICUと議論の上、CFPMでの治療を行いました。

Q11:不安定な場合GNRカバーでCFPMとありましたがが、腸球菌カバーはしなくてもよいのでしょうか?
A11:VCM+CFPMで治療開始するので、腸球菌はバンコマイシンでカバーしています。腸球菌は、一般的なCRBSIの経験的治療(安定、不安定に関係なく)に含まれるバンコマイシンでカバーされるため、意図せずともカバーされることになります。
不安定な場合のGNRのカバー、Candidaのカバーは、MRSAを想定しての経験的なVCMでの治療「に加えて」とお考え下さい。本邦では問題になる程VREは頻度が高くないと考えられ、VCMでほぼ腸球菌の治療が可能です。(一部、Enterococcus casseliflavusやE. gallinarumという腸球菌はVCMに自然耐性ですが、これらはABPCに感受性のことが殆どであり、VREとは考えません)。

Q12:化膿性血栓性静脈炎の場合、抗凝固薬の使用は、治療の補助/弊害となり得ますか?特に大腿CVの血栓の場合はどうでしょうか。
A12:コントロールスタディがないので、化膿性血栓性静脈炎の治療として、抗凝固療法はルーチンの治療として推奨されていません。抗菌薬治療で血栓性静脈炎も改善することが多いですが、血栓のフォローで血栓が増悪する場合などは、抗凝固療法を検討することがあります。

Q13:中心静脈カテーテルを抜去しないのはどういうときでしょうか?
A13:CVポートですぐに抜去できない場合や、血液悪性腫瘍患者で血小板低値であり、すぐの穿刺が困難な場合、血栓で他の部位が使えない、全身熱傷で穿刺可能部位がない、などが考えられます。また、ガイドライン上も、発熱のみの場合(まだ診断がCRBSIかはっきりしていない場合)、カテーテルの抜去は一律には推奨していません。

Q14:カテ抜去後、再挿入の必要がある場合、どのくらい間隔をあけたら入れた方が良いでしょうか?
A14:ガイドライン中に再穿刺のタイミングについて言及はありません。必要ならば(透析が必要、ラインがないなど)すぐに入れることがやむない場合もあります。永久に留置されるようなデバイスであれば(ペースメーカーのような)、AHAの心臓植込み型電気的デバイス感染(CIED感染)のガイドライン(Circulation 2010;121;458-477)に準じて、血液培養陰性確認72時間以上(感染性心内膜炎の場合は血液培養陰性確認から14日間)経過してから留置可能、と推奨することはありますが、短期留置型カテーテルでは、多くの場合留置が必要だから入っているのであって、抜去後すぐの留置はやむないと考えます。

Q15:PICC、HD用カテーテルを含むCVCは、ルーチンで交換しなくて良いのでしょうか?当院では2週間ルールで交換しています。
A15:ルーチンで交換は推奨されていません。(O'Grady NP, Alexander M, et al. : Am J Infect Control 39:ppS1-34,2011)

Q16:HD用カテーテルの消毒法はどのようなものが良いか?接続部内腔まで行ったほうがよいでしょうか?
A16:説明書きに使えると記載されているものを使用します。内腔に消毒薬が入らないようする必要があります(内腔の消毒はしてはいけません)。

Q17:Qサイト(スプリットセプタム式のポート)のようなクローズドシステムの交換タイミングは?
A17:通常の末梢ルートの交換頻度と同様の推奨が記載されています。ニードルレス接続部品は、少なくとも点滴セットと同程度の頻度で交換する。72時間間隔を越える頻度での交換にメリットはない。ニードルレスコネクタは、感染率低減の目的で、72時間毎よりも頻回にならないように、または、製造元の推奨に従って交換する。(O'Grady NP, Alexander M, et al. : Am J Infect Control 39:ppS1-34,2011)

Q18:血管内留置カテーテル挿入前に抗菌薬の予防投与は必要でしょうか?
A18:予防投与は必要ありません。(O'Grady NP, Alexander M, et al. : Am J Infect Control 39:ppS1-34,2011)

Q19:亀田総合病院ではCVの抜去可能かどうかのdaily assessmentはしていますか?
A19:しています。毎日行う必要があります。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育