第3回亀田感染症セミナーin東京での質問への回答(講義7)
「第3回亀田感染症セミナーin東京」で頂いた質問への回答です。たくさんの質問をありがとうございます。
講義7:化膿性椎体炎
Q1:椎体炎の発生機序で「外傷」がありますが、穿通性のものでなくても、圧迫骨折などもありえるのでしょうか?
A1:圧迫骨折があった場所に椎体炎を生じることはありますが、腰椎では外傷性の機序は稀だと考えられます。新規の圧迫骨折を機序に、その部位の椎体炎を生じることは一般的には稀です。一般的には開放骨折などによる外傷後の骨髄炎が、外傷性の要因としては多いと思います。
Q2:椎体炎を疑って、MRIを撮像する際には造影剤は毎回使用していますか?
A2:椎間板炎・椎体炎の診断には単純MRIで十分診断が可能です。周囲の軟部組織の異常の検出には造影MRIは有効です。(Clin Infect Dis. 2015;61(6):e26-46)
Q3:腸腰筋膿瘍でも画像は治療効果判定には使えないのでしょうか(疼痛・CRP低下しても、膿瘍は大きくなった患者さんを経験したことがあります)?
A3:腸腰筋膿瘍の画像上の判定には造影CTが有用です。治療効果判定には使用できますが、治療初期は一時的に悪化することもあり、臨床上改善しているが、データが悪化して矛盾する場合には臨床上の改善を信じて治療することが多いです。一方で、膿瘍が大きくなり続ける場合には、やはりドレナージを考慮します。
Q4:open biopsyでもSSI予防の抗菌薬は使用しても良いのでしょうか?
A4:open biopsy前の抗菌薬使用に関するretrospective studyでは、open biopsyに関しては、術前の抗菌薬使用(empirical therapy)は培養陽性率に関連しなかったとの報告があります(Clin Infect Dis 2011;52(7):867-72)。理想的には抗菌薬フリーが良いですが、難しければ、術前の一回投与であれば大きな問題はないかと考えます。
Q5:人工関節感染症以外で、椎体炎の起因菌が黄色ブドウ球菌の場合、リファンピシン併用は検討しますか?
A5:人工物がある場合にのみ、黄色ブドウ球菌感染症・Staphylococcus lugdunensis感染症・CNS感染症にリファンピシンを併用しています。黄色ブドウ球菌菌血症(ほとんどの症例が人工物感染ではなかった報告です)全体に関しては、リファンピシン併用による有効性が証明されず(Lancet 2018;391(10121): 668-678)、また、副作用・薬物相互作用も増加します。当院のプラクティスとしては、人工物がない患者の黄色ブドウ球菌感染症に対して、ルーチンにリファンピシンを追加することは行なっておりません。
Q6:起因菌のわかっている椎体炎でセフトリアキソン で治療している患者が、4週間ほどして胆石症となってしまいました。その患者さんは胆泥をもともと持っていた人でしたが、そもそも全例最初からセフォタキシムで治療することはどうなのでしょうか?
A6:セフトリアキソン使用中の胆嚢結石が出現した場合、結石による胆石症を考えます。結果的にはセフォタキシムであれば胆石症にならなかった可能性を考慮しても、全例で最初からセフォタキシムにするかは難しいところです。効果は同等のため、どちらでも良いのですが、私たちはセフトリアキソンを長期に使用するときは、AST/ALT上昇や腹部症状に気をつけて、異常がある場合には、早期に腹部エコーを行うなどの対応をしています。胆石がある患者さんの場合は、最初からセフォタキシムを使用しています。
Q7:Enterococcus faecalisが起因菌の椎体炎でアンピシリンで治療していた患者に6週間治療していた途中でCRPが再度上昇を認めました。その際に、上級医はバンコマイシンに抗菌薬を変更するというプラクティスを行なっていましたが、もう一度血液培養を採取して感受性を見たほうがよかったのでしょうか?
A7:起因菌が同定され、ドレナージが不要もしくは十分に施行され、有効な抗菌薬が十分量点滴で投与されている場合、一旦改善傾向にあった椎体炎が、治療後期に悪化することは稀だと考えます。治療期間が長いため、治療中に院内感染や非感染症の病態が合併することはよくあります。原因不明のCRP上昇を認めた場合、CAUTI, CRBSI, HAP, CDI, 胆嚢炎など感染の評価と、薬剤熱、結晶性関節炎(痛風、偽痛風)、末梢ルートの血栓性静脈炎などの非感染性の原因の評価を行なっています。これらの原因がない場合、治療をせずに経過を追うことが多いです。
Q8:治療期間が長いため、6週間以内で1日1回の抗菌薬(CTRX, LVFXなど)を選択して、連日外来に切り替えることはありますか?(スペクトラムはbroadになってしまいますが...)
A8:副作用の観察も含めて、入院治療がよいですが、外来抗菌薬点滴治療(OPAT)や、内服治療を選択せざるを得ない状況では、上記のように切り替えることはあります。早期の内服治療へのスイッチでも、治療は可能というデータもありますが(BMC Infectious Diseases 2014;14:226)、私たちのプラクティスとしては、治療失敗を避けるために、現時点では治療初期は可能な限り点滴治療を行なっています。
Q9:膿瘍の合併例などで最大で治療期間は何週まで延長していますか?
A9:最大の治療期間は特に設定してはおりませんが、大きな膿瘍の合併例で、どうしてもドレナージできない場合などで、MRSAなどが起因菌の場合には、3ヶ月以上静注が必要な場合があります。
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育