VA-ECMO患者におけるImpella vs IABPによる左室負荷軽減:システマティックレビューとメタ解析

Journal Title
Left Ventricular Unloading With Impella Versus IABP in Patients With VA-ECMO: A Systematic Review and Meta-Analysis Kruti D et al. Am J Cardiol 2023;208:53-39.

論文の要約
【背景】
心原性ショック患者の循環補助に動静脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)を用いると、左心室の後負荷が増加する。VA-ECMOとImpellaまたは大動脈内バルーンポンピング(IABP)の併用が、左心室負荷軽減のための補助装置として提唱されている。著者らはこの2つの左心室負荷軽減戦略の有効性と安全性を直接比較した。
【方法】
VA-ECMO患者でのImpellaまたはIABP併用を比較した研究を特定するために、Medline、EMBASE、Cochraneデータベースを検索した。Primary outcomeは短期間の全死亡(30日死亡あるいは院内での死亡と定義)とした。Secondary outcomeには左心室補助装置(LVAD)/心臓移植への移行、脳卒中、四肢虚血、持続腎代替療法(CRRT)、出血、溶血を含めた。Pooled risk ratio(RRs)の95% 信頼区間と統計的I2の不均一性は、ランダム効果モデルを用いて計算された。合計7件の観察研究、698名の患者が含まれた。
COVID-19指標日前にワクチン接種回数(1回、2回、3回以上)、急性感染の重症度で層別化した解析も行った。感染前の最初の2回の接種に使用したワクチンの組み合わせによって分類し、異なるワクチンに関する個別のサブグループ解析も実施した。
【結果】
VA-ECMO患者でImpellaまたはIABPを併用した場合、短期間の全死亡割合はそれぞれ60.8% vs 64.9%(RR 0.93[0.71 to 1.21], I2=71%)と同等だった。左心室補助装置(LVAD)/心臓移植への移行、脳卒中、四肢虚血、持続腎代替療法(CRRT)の開始についても差は見られなかった。しかし、VA-ECMO患者にImpellaを併用すると、IABPを併用した場合に比較して、出血(57.2% vs 39.7%)(RR 1.66,[1.12 to2.44], I2=82%)、溶血(31% vs 7%)(RR 4.61[1.24 to 17.17] I2=66%)のリスク上昇と関連していた。 【結論】
VA-ECMOによる循環補助を必要とする患者において、ImpellaまたはIABPの併用では短期間の死亡は同等であった。しかし、Impellaを併用すると出血、溶血リスクの上昇と関連があった。
【批判的吟味】
本研究では対象とした7件の研究すべてが後方視的観察研究であり、バイアスリスク評価 RoBANS(Risk of Bias Assesment Tool for Nonrandomized Studies)が行われていないため得られた結果の妥当性は低いと考えられる。また、サンプルサイズが小さいため誇張された効果量を報告している可能性がある。出血リスクに関してImpellaを併用すると上昇したが、種類の違うImpella間での出血リスクの比較がなく、Impella 5.0を使用し人工血管を立てたことが出血に影響を与えるか不明である。溶血リスクについてもImpellaを併用すると上昇したが、カテーテルの位置が的確だったのか、患者の血行動態に見合った適切な管理ができていたかが不明である。つまり、Impellaは臨床導入後比較的新しい装置であり、的確な管理がされていなかった可能性もある。

Implication
ImpellaまたはIABPどちらを併用した場合でも短期死亡に差はなく、出血や溶血については重大な合併症ではなく、サンプル数が少ない研究であるため、Impellaを併用することは許容されると考える。しかし、医療経済的な面を考慮すると、Impellaの併用は症例を十分に吟味する必要があるだろう。本研究からはどのような症例がImpella併用に適するのか不明であり、VA-ECMOによる循環補助を必要とする患者における最適な左心室負荷軽減戦略を特定するには、ランダム化比較試験が必要と言える。

文責 髙久太輝/南三郎

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科