重症患者における血清Naの上昇と院内死亡との関連性について

Journal Title
Association Between an Increase in Serum Sodium and In-Hospital Mortality in Critically Ill Patients
Crit Care Med. 2021 Dec 1;49(12):2070-2079.

論文の要約
・背景
ICUに入室する多くの患者は血清Na濃度異常を合併し、入室後にも新たに血清Na濃度異常を合併する。高Na血症([Na]>145mmol/L)およびは重症低Na血症([Na]<125mmol/L)は死亡に対して独立した危険因子である。著者らは、軽度の低Na血症は重症疾患に対する生体の適応メカニズムであると仮定し、意図的もしくは他の治療の副作用による血清Na濃度の上昇自体が逆説的に有害で生存率を低下させると考えた。そこで、本試験は様々な血清Na濃度のICU患者において、ICU入院後48時間の血清Na濃度の変化と死亡との間に独立した関連があるか検証した。

・方法
本研究は、2011年1月から2017年4月までに、オランダの大学病院7施設と大規模教育病院3施設を含む10のICUからオランダ国家集中治療評価( National Intensive Care Evaluation)レジストリに登録された患者データを対象にした後ろ向きコホート研究である。ICU入室後48時間の血清Naの変化を評価するために、ICU入室後24-48時間の血清Na測定値の平均値(mean[Na]24-48hr)とICU入室時の最初の血清Na測定値([Na]first)との差を算出したもの(△48hr-[Na]=mean[Na]24-48hr-[Na]first)と定義した。また48時間後の[Na]と院内死亡との関連が、血清Naの急激な変化に影響されている可能性を検討するため、ICU入室後48時間の血清Naの変化速度(Vmax-△[Na])を評価した。Vmax-△[Na]は、入院後48時間以内で最初の血清Naから少なくとも2時間以内にに得られた最初のNa測定値と任意のNa測定値との間の血清Naの変化の最高速度と定義した。主要評価項目は△48hr-[Na]と院内死亡との関連を解析することで、副次評価項目はVmax-△[Na]と院内死亡との関連について解析することである。
データ解析は△48hr-[Na]と院内死亡率との関連とVmax-△[Na]と院内死亡率との関連についてロジスティック回帰法で解析した。また、△48時間-[Na]と院内死亡率との関連について、ICU入室理由に脳内病変がある患者群とない患者群の2つのサブグループに分けて解析を行った。それぞれの多変量モデルは年齢、性別、APACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)IVで予測される死亡率で調整した。

・結果
125,876人の患者が参加したICUに入院し、そのうち36,660人が抽出された。軽度の低Na血症、正常Na血症、高Na血症で入院した患者では、△48hr-[Na]は非生存者でより高かった。ICU入室時に軽度の低Na血症(125〜135mmol/L)の患者の院内死亡に対する調整ORは、△48hr-[Na] 5〜10mmol/L で1.10[95% CI, 0.97-1.25],△48hr-[Na] 10mmol/L 以上で OR,1.17[95% CI, 0.92-1.49 ]であった。正常のNa血症、高Na血症の2つのカテゴリーを組み合わせると、院内死亡の調整ORは、入院時に軽度の低Na血症を有し、△48hr-[Na]が5mmol/Lより大きい患者で1.11(95%CI、0.99-1.25)であった。軽度の低Na血症の患者のVmax-△[Na]では、院内死亡に対する調整ORは、2.5-5mmol/L/24hrで1.07 [95% CI, 0.88-1.30] 、5-7.5mmol/L/24hrで1.14 [95% CI, 0.93-1.40] 、7.5-10 mmol/L/24hrで1.02 [95% CI, 0.83-1.27] 、10mmol/L/24hr以上で1.17[95% CI, 0.99-1.38] )で血清Naの増加と死亡は、すべてのVmax-△[Na]群で、V -△[Na]が高いほど調整ORが高くなった。
ICU入室時に高Na血症を呈していた患者では、Vmax-△[Na]が7.5mmol/L/24時間以上の患者で院内死亡が最も高かった。

Implication
重度および軽度の低Na血症、正常Na血症、高Na血症で入院したICU患者群を対象に、ICU入室後48時間の血清Naの変化と院内死亡との独立した関連性を評価した初めての研究である。
本研究は後方視研究であるため以下にあげる限界に注意する必要がある。
対象者は既存のデータベースに登録され、規定した[Na]が記録されていたものに限定され、つまり対象者選択がタイムゼロ(フォローアップ開始)あとになるため、死亡・不適格者・脱落などは組み入れられず、選択バイアスが存在する。[Na]は連続変数であるが、その分析には恣意的な区間で区切って比較している。結果の頑健性を保証するには、規定した区間以外での感度分析や[Na]、△[Na]、それに対応するOdds比を3次元曲線で示し全体の傾向がわかるようにするとよいと考える。また脳疾患のある患者群ではサブグループ解析が行われているが、その他の疾患での解析がなされておらず、結果の異質性があると考えられる。残余の交絡因子(48時間以降のNa濃度変化、治療内容等)も存在しえるため、本試験のモデルでは説明できない可能性がある。
以上から、今後は患者選択とタイムゼロを出来るだけ一致させ、感度分析を十分行うことが必要と考える。

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文責 名和 宏樹・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科