脳神経外科集中治療室に入院した頭部外傷患者における、ペパーミントゲルの褥瘡予防 効果:二重盲検ランダム化比較試験

Journal title
The effects of peppermint gel on prevention of pressure injury in hospitalized patients with head trauma in neurosurgical ICU: A double-blind randomized controlled trial
PMID: 31780037 DOI: 10.1016/j.ctim.2019.102223

論文の要約
・背景
褥瘡は、医療・経済・心理・社会的負担を引き起こす疾患である。その予防・治療に対して様々な方法が検証されてきたが、確固たるものはない。薬草は副作用が少なく褥瘡に対する補完医療として使われてきた。ペパーミントのエッセンシャルオイルには抗菌・真菌作用、防腐作用、皮膚弾力性増強作用がある。また、その成分であるメントールには局所的な血管拡張作用があり、薬剤の経皮吸収の増強作用、冷感作用や鎮痛作用といった性質があるため褥瘡を予防出来る可能性がある。しかし、ペパーミントゲルの褥瘡予防の対する効果を検証した研究はない。そこで本研究は褥瘡リスクの高いICU入室した頭部外傷患者を対象にペパーミントゲルが褥瘡を予防するか検証した。

・方法
本研究は平行群間二重盲検ランダム化比較試験でありイランのシーラーズ市内の医科大学病院と総合病院の2つの集中治療室で実施された。参加者の組み入れ基準は、頭部外傷で集中治療室に入室したもので、入院時に気管挿管され、中程度〜重度の褥瘡発生リスク(Braden score 13-14未満)を有し、糖尿病、心不全、腎不全、進行癌といった全身性疾患がなく、入室時に褥瘡がなく、入院時のGlasgow Coma Scaleが8以下であり、多発外傷による体位変換制限がない患者であった。除外基準は、入院後48時間以内の死亡や一般床への転床、組み入れ後48時間以内の意識レベルの通常レベルまでの改善、患者関係者からの拒否であった。
患者は試験前基礎情報を収集後に封筒法でペパーミントゲル使用群とプラセボゲル使用群の2群に分けられ、毎日3回ゲルを褥瘡発生リスク部位に塗布し、最大14日間フォローした。なお、プラセボゲルはペパーミントオイルのみ含まず同じ過程で調合され、同色、同臭であった。
主要評価項目はNational Pressure Ulcer Advisory Panelでのstage1の褥瘡発生とされ、トレーニングを積んだ看護師と専門家により1日1回評価された。サンプルサイズ計算は30人規模のpilot studyを参考にし、α値=0.05、検出力=80%とし、各群54症例の片側検定で潜在的脱落を考慮し各群75人ずつとした。2群間比較はPer Protocol解析で行われた。

・結果
160人が選定され、10人が除外、残り150人が試験前基礎情報収集後に75人ずつにランダム化された。ランダム化後に各群5人ずつ追跡不能となり、最終的にペパーミントゲル使用群70人、プラセボゲル使用群70人が14日間評価され分析された。
ベースライン特性では、血管作動薬を使用している割合が介入群で有意に多く(介入群10.7%、プラセボ群1.3%、P=0.016)、各群ともに8割近くを男性が占め、平均年齢が34歳、38歳と若年であった。それ以外に2群間に差はみられなかった。褥瘡発生割合に関しては、介入群の16人(21.3%)プラセボ群の54人(72%)で褥瘡が発生し、2群間に有意差を認めた。Kaplan-Meier曲線からは、褥瘡発生率に両群とも時間経過とともに褥瘡発生率は高くなり、特にプラセボ群で顕著であるという特徴が見られた。両群で発生した褥瘡の部位別頻度として、仙骨部が最多で、ついで背部、臀部、肩、肘の順であった。

Implication著者らは頭部外傷後脳外科ICUに入院した患者に対してペパーミントゲルは褥瘡発生を減らす効果があると結論づけている。
本研究は医療負担が重く、予防治療が定まっていない褥瘡に対してペパーミントゲルを利用し予防を検証した重要な研究である。患者。治療者ともに盲検化がなされ、ランダム化比較試験を実施したことは評価される。しかし、以下の問題点は無視出来ない。
1.ブロックランダム化がなされておらず、施設間格差の存在が考えられる。2.サンプルサイズ設計において予想された対照群のアウトカムと治療効果が示されていない。さらにサンプル数も小さく、交絡を含めた群間差が解消されていない可能性があり、検定も理由なく片側検定が使用されているためαエラーの可能性が考えられる。よって本研究が示した大きな効果量の解釈には注意が必要である。3.経過日数ごとの褥瘡発生率の結果が詳しく表として明記されておらず、Kaplan-Meier曲線での打ち切りの内容も明記されていないため、競合リスクに対する調整がなされておらず結果の内的妥当性に懸念が残る。
以上から本研究結果をもって実臨床でのペパーミントゲルの褥瘡予防効果を結論づけることは出来ない。しかし、重要な仮説であることに違いなく、上記点を改善した多施設ランダム化比較試験が期待される。

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文責 高橋良汰/増渕高照/南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科