デキサメタゾンの経口投与は症候性慢性硬膜下血腫患者の6ヵ月間の機能的転帰を改善するか

Journal Title
Trial of Dexamethasone for Chronic Subdural Hematoma, The New England Journal of Medicine, 2020.

論文の要約
<背景>
慢性硬膜下血腫は主に高齢者に多い神経疾患で、抗凝固薬と抗血小板薬の使用により罹患者数は年々増加傾向である。誘因は軽度の頭部外傷であることが多く、その後の炎症が病態に関与している可能性が指摘されている。慢性硬膜下血腫の主要な治療法は外科的除去術であるが、患者の10〜20%に血腫が再発すると言われている。先行研究のシステマティックレビューでは、グルココルチコイドが、慢性硬膜下血腫の再発のリスクを軽減する目的で手術に加えて使用する場合、または手術を回避する目的で単独療法として使用する場合に、安全かつ有効である可能性を示している。そこで、本研究では症候性慢性硬膜下血腫に対するデキサメタゾンの効果を評価するためのプラセボ対照の多施設ランダム化比較試験が行われた。

<方法>
英国の24時間体制で緊急脳神経外科手術可能な23施設で行われた二重盲検化多施設ランダム化比較試験である。対象は2015年8月から2019年11月に当該施設を救急受診した18歳以上の症候性慢性硬膜下血腫の患者とした。観察期間内で入院後72時間以内に、介入群ではデキサメタゾンの漸減経口投与(8mgから開始し2週間で漸減中止)、対照群ではプラセボ経口内服され、手術介入の時期に関しては臨床医の判断に委ねられた。患者は入院から3か月後と6か月後にフォローされた。
主要評価項目には無作為化6か月後のThe Modified Rankin Scale(以下mRS)0-3の割合が設定された。副次的評価項目に関しては、退院時と3か月後のmRS0-3の割合、無作為化後30日と6か月後の死亡率、慢性硬膜下血腫の再発率、退院時と6カ月後のGCS・Barthel Index・EuroQol Group 5-Dimension 5-Level questionnaire、在院期間、有害事象などが設定された。
サンプルサイズ計算はPower:81-92%、両側有意水準5%、予想される脱落数15%に設定され、先行研究で80-85%の患者で良好な転帰を示し、8%の増加を見込み、各群750人の患者数を推定し、盲検化された中間解析も実施されたが、サンプルサイズの変更はなかった。同意撤回または追跡調査から脱落した患者を除外した修正intention-to-treat解析が行われた。

<結果>
観察期間内に受診した2203名のうち、750名が無作為化され、最終的に介入群341名、対照群339名が割り付けられ、両群のベースラインの特徴は類似していた。
主要評価項目であるmRSスコア0〜3の良好な転帰の患者の割合は介入群で83.9%(286/341例)、プラセボ群で90.3%(306/339例)であった(二群間の差は-6.4%。95%信頼区間で-11.4〜-1.4。p-value 0.01)。また、Perprotocol解析でも同様の結果であった。
副次評価項目に関しては、3カ月のmRSの良好な転帰、有害事象に関しては対照群が介入群に比して多く発生した。その一方で、再発に対する手術の割合は介入群が対照群に比して少なかった。

Implication
慢性硬膜下血腫患者を対象としたこの試験では、ほとんどの患者が入院時に外科的除去術を受けており、デキサメタゾンの保存的加療に対する効果判定をするにはサンプル数が少なく不十分である。副次的評価項目に関しては、デキサメタゾンを投与された患者では、硬膜下血腫の再発に対する再手術の実施が少なかった一方で、デキサメタゾンはプラセボよりも多くの有害事象と関連していた。
本試験において、二重盲検化ランダム化プラセボ投与群との比較試験であり、内的妥当性は高く、多施設研究であるため外的妥当性も高い。その一方で2203人中1453人が対象外となっている点、英国1国の試験という点では外的妥当性に疑問が残る。
以上から主要評価項目である6ヶ月後の良好な転帰に結びつかず、有害事象も多い結果を踏まえると血腫除去術後の再発予防のためのデキサメタゾンの使用は控えるべきである。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科