プライマリケアにおけるインフルエンザ様疾患に対する通常のケアと通常のケアにオセルタミビル投与を加えた治療を比較した非盲検化ランダム化比較試験

Journal Title
Oseltamivir plus usual care versus usual care for influenza-like illness in primary care: an open-label, pragmatic, randomized controlled trial
Lancet December 12, 2019; 395: 42-52 PMID:31839279

論文の要約
<背景>
抗インフルエンザ薬に関してガイドライン上はインフルエンザ疑いもしくはインフルエンザと診断されたハイリスク患者に対する投与が推奨されている。しかし多くのヨーロッパ諸国においてはプライマリケアのセッティングで抗ウイルス薬が処方されることは多くない。理由としては臨床的効果・費用効果が明らかでないこと、嘔気・嘔吐などの副作用があること、ベネフィットを受ける患者が前向きのpragmatic studyで特定されていないことなどが挙げられる。一方でオセルタミビル投与のベネフィットを示した先行研究は複数あり、1つのメタアナリシスではプラセボとの比較で成人のインフルエンザ患者において症状緩和までの時間を17.8時間(95% Confidence interval: 27.1-9.3)短縮することが示されている。またコクランレビューではオセルタミビル投与によって最初の症状緩和までの時間が16.8時間(95% CI: 21.8-8.4)短くなることが示されている。ただしこれらの報告に含まれた研究のいくつかはunderrecruitingや小児・高齢者を十分に含んでいないなどの点で批判されており、また日常的活動への復帰・QOL・病院受診行動などに対する抗ウイルス薬の効果は明らかにされていない。以上をふまえ本研究ではインフルエンザ様疾患の患者に対する抗ウイルス薬の投与が回復までの時間を患者全体あるいは特定のサブグループにおいて減らすのに効果的かどうかを検証した。
<方法>
プライマリケアを担う医療機関を含むネットワークから3回のインフルエンザシーズンにわたってインフルエンザ様症状を呈した患者がリクルートされた。なおインフルエンザ様症状の定義はインフルエンザの流行期において少なくとも各一つ以上の呼吸器症状と全身症状を伴う突然発症の自己申告での発熱があり症状の持続が72時間以下のものとされた。リクルートされた患者は年齢、重症度、併存症の有無、発症からの経過時間で層別化され、遠隔オンラインシステムを用いてusual care+ oseltamivir群とusual care群にランダム割り付けされた。臨床医の判断で直ちに抗ウイルス薬の投与もしくは緊急入院が必要と判断された症例や慢性腎不全・免疫不全・重度の肝障害などのハイリスク患者は除外された。介入群では通常のケアに加えてoseltamivirが体重に応じて1日2回5日間投与された。患者が日常的活動にいつ復帰したかを特定し各症状がno, minor, moderate, major problemのいずれに該当するかを評価するために両群の患者は14日間にわたってダイアリーを記載するよう求められ、評価者は2-4日目の間、14-28日目の間、28日以降の各タイミングで患者に電話でコンタクトを取った。プライマリアウトカムとして患者が報告した回復までの時間が設定され、患者が日常的活動へ復帰しかつ発熱・頭痛・筋肉痛がminorまたはno problemとなるまでの時間が評価された。主解析はベイズ区分指数モデルを用いて行われた。
<結果>
2015年-2018年の連続した3回のインフルエンザシーズンにわたって15のヨーロッパの国の209のプライマリケア医療施設を含んだ21のネットワークからインフルエンザ様症状を呈する患者5501人がリクルートされ3266人がusual care+ oseltamivir群とusual care群にランダム割り付けされた。2群間のベースラインは同等であった。プライマリアウトカムである患者が報告した回復までの時間を両群で比較すると対照群は6.73 days (95% Bayesian credible interval 6.50-6.96) 、介入群は5.71 daysでありoseltamivir投与によって1.02days(BCrI 0.74-1.31)のベネフィットが得られた。ハザード比は1.29(95% BCrI 1.20-1.39) であった。年齢・重症度・併存症の有無・発症からの経過時間で区分された各サブグループにおいてもハザード比は1.26-1.41とほぼ同じであったが、より高齢で重症かつ併存症があり発症からの経過時間が長いほど回復までの時間が長くoseltamivir投与の恩恵を受けやすい傾向があった。検査でインフルエンザ陽性と確定した患者群におけるハザード比は1.27(BCrI 1.15-1.41)、陰性群では1.31(1.18-1.46)と差は認めなかった。追加の感度分析でインフルエンザA陽性 vs B陽性、シーズンごとの比較、インフルエンザ感染 vs 他のウイルス感染での比較も行われたがいずれの比較においてもベネフィットは同等であった。セカンダリーアウトカムでは抗菌薬の使用および家庭内での感染伝播が介入群でやや少なかった。新規症状の出現もしくは症状増悪に関しては嘔気・嘔吐が介入群で多く(325[21%] of 1535 vs 248[16%] of 1529)長く持続する傾向があったが(HR 0.94, 95% CI 0.86-1.01)それ以外の症状は介入群の方が改善が早かった。通常の日常的活動ができない患者の数、時間は両群で同等であった。有害事象は介入群で12例、対照群で17例の合計29例が報告され、介入群ではoseltamivir投与との関連が疑われるものとして薬疹1例と膝から下の切断を要した下肢虚血1例が報告された。

Implication
本研究はプライマリケアにおけるoseltamivir投与の効果を検証した大規模なランダム化比較試験である。プライマリアウトカムとして日常的活動への復帰および症状の改善によって定義された回復までの時間が設定されており実臨床での実用性が考慮されている点は評価できる。また外的妥当性に関しても15か国の209施設の幅広いpopulationが含まれており一般化可能性は高いといえる。一方でopen-label trialであるにもかかわらずソフトアウトカムが設定されているため情報バイアスが結果に影響を及ぼしている可能性が高い。さらにopen-label trialであることに加え、インフルエンザ陽性群と陰性群の比較でoseltamivir投与のベネフィットが同等であったことを考慮するとプラセボ効果が大きく影響している可能性がありoseltamivirそのもののベネフィットを見積もることは困難である。またワクチン接種率が10%程度のpopulationを対象にしておりワクチン接種率の高い日本人に対して結果を適用できるかは不明である。以上を踏まえると本研究でoseltamivir投与のベネフィットが示されたと結論付けることはできず、重症化リスクのないインフルエンザ患者に対しては抗ウイルス薬の投与を行わないとする現在のpracticeを変えるものではないと考える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科