spot sign陽性の血腫増大傾向を示す急性脳出血患者に対する組み換え活性化凝固因子VII製剤(rFVIIa)の効果について

[ Journal Title ]
Effect of Recombinant Activated Coagulation Factor VII on Hemorrhage Expansion Among Patients With Spot Sign-Positive Acute Intracerebral Hemorrhage: The SPOTLIGHT and STOP-IT Randomized Clinical Trials.
David J. Gladstone, MD, PhD et al, JAMA Neurology, August 19, 2019, PMID: 31424491

[ 論文の要約 ]
【背景】
脳出血は効果的な治療法の未だない予後の悪い脳卒中である。脳出血患者の予後は血腫量と血腫量増大に正の相関があり、10%血腫量が増大するごとに死亡率は5%上昇するとされる。
rFVIIaはプラセボと比較して脳出血の血腫量増大を50%抑制するが、臨床的予後は変えなかったという過去の第3相ランダム化比較試験がある。ただし左記の先行研究では、発症からrFVIIa投与までの時間以外には活動性出血の予測因子を用いずに患者が選定されている。そこで脳出血の血腫増大を予測する画像マーカー-CT angiographyで見られるspot sign-を用いることで、凝固因子製剤投与による止血療法が有益な患者を抽出できる可能性がある。
【目的】
組み換え活性化凝固因子VII製剤がspot sign陽性脳出血患者の血腫増大を抑制するか検証すること
【方法】
本研究の手法は並行群間、研究者主導の多施設二重盲検、プラセボ対照群のランダム化比較試験で、SPOTLIGHT("Spot Sign" Selection of Intracerebral Hemorrhage to Guide Hemostatic Therapy)、STOP-IT(The Spot Sign for Predicting and Treating ICH Growth Study)と呼ばれるプロトコルを調整した2つの試験がカナダおよびアメリカ合衆国で行われた。事前計画されたプロトコルを用いた個々の患者レベルの分析で、救急科を受診した患者のうち、急性特発性脳出血がありCT angiographyでspot sign陽性であった患者が選定された。データ収集は2010年11月から2016年5月にかけて行われ、データ解析は2016年11月から2017年5月に行われた。選定された患者は脳出血発症から6.5時間以内に80μg/kgのrFVIIa静注あるいはプラセボ静注群にランダム割付された。primary outcomeは初療時と24時間後の頭部CTで比較したときの脳実質内の血腫量増大の程度と設定し、secondary outcomeは初療時と24時間後の頭部CTで比較したときの脳実質内+脳室内出血の血腫量増大の程度と設定した。初療時の血腫量、発症から治療までに要した時間、トライアルで調整された24時間後の血腫量を線形回帰モデルを用いて両群間の血腫量増大の程度を比較した。
【結果】
選定された69名の患者のうち35名(51%)が男性で、年齢中央値(interquartile range [IQR])は70(59-80)歳であった。初療時の血腫量 (IQR) はrFVIIa群で16.3 (9.6-39.2) mL、プラセボ群で20.4 (8.6-32.6) mLだった。CT撮影から治療までに要した時間(IQR)は71 (57-96) 分であり、脳出血発症から治療までに要した時間(IQR)は178 (138-197) 分だった。初療時と24時間後のCTを比較したときの血腫増大量(IQR) は両群とも僅かであり、rFVIIa群で2.5 [0-10.2] mL、プラセボ群で2.6 [0-6.6] mLだった。血腫増大の予測因子で調整したところ、脳実質内(primary outcome)および脳室内出血を含めた場合(secondary outcome)の両方において、両群間で血腫増大量に有意な差を認めなかった。第90病日においてrFVIIa群30名中9名、またプラセボ群34名中13名の患者が死亡ないし重度の障害が残った(P = .60)。
【結論】
発症から約3時間(中央値)で治療されたspot sign陽性の脳出血患者において、rFVIIaは画像所見、臨床予後の両方を有意に改善させなかった。

[Implication]
2019年9月時点の本邦での凝固異常がない場合の脳出血に対する凝固因子製剤投与は推奨されていない(エビデンスレベルD 脳卒中治療ガイドライン2015)。このことからも分かるように、脳出血に対する凝固因子製剤の投与は未だ十分な科学的根拠に基づいていない。本研究はspot signを用いて血腫増大傾向にある患者を過去研究より厳密に選び出したうえで、rFVIIaによる20mlの血腫増大抑制効果を期待した研究であったが、患者の組み入れ制限が強かったことからサンプル数が十分集まらなかった。施設間較差の大きな血腫除去術の適応例についてはblock randomizationにより層別化されているものの、サンプル数が少ないため十分に調整されていない可能性があり、また両群間の割付についても発症から3時間以内に治療介入できた割合がrFVIIa群で少ないなど、両群間の均等性には疑問が残った。
また過去の脳出血の血腫進行時期についての報告や本研究でのFig 2.の結果をふまえると、治療介入時には多くの例で血腫増大が既に進行していた可能性が残った。したがって今後はより脳出血の発症早期に治療介入する仕組みを整備すること、また他の血腫増大の予測因子を併用することでより正確に血腫増大傾向にある患者を選定すること(ただしこれによりさらに患者数が十分集まりにくいというジレンマを伴う)が本研究の目的・仮説を実証のために必要といえる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科