安房地域医療センター合同 Journal Club

「重症外傷におけるIVC(Inferior Vena Cava)フィルターの多施設トライアル」

Journal Title
A Multicenter Trial of Vena Cava Filters in Severely Injured Patients

論文の要約
背景:後方視研究では外傷後の死亡の12%が肺塞栓でその半分は防ぎ得た可能性があったという報告もあり効果的な予防的血栓予防は重要である。
3日以内での抗凝固療法の導入は血栓症の発生を減少させるが、重症多発外傷や頭蓋内出血は抗凝固療法を早期導入しにくい。抜去可能なIVCフィルターが広く多くの外傷センターで予防的に使わているが前向き研究は存在せずより質の高い研究が必要である。
Hypothesis:
IVCフィルターの早期留置は抗凝固療法が使用できない重症外傷患者において有症状のある肺塞栓を減らすことができる。
PICO:
P:抗凝固療法が使えない重症外傷患者
I:72時間以内の予防的抜去可能なIVCフィルター挿入は
C:抗凝固療法を行わない通常の治療と比較して
O:肺塞栓を減らすことができる。

方法:デザインはOpen-Label, multi-center, prospective で施設はオーストラリアの4つのtertiary hospitals、期間はJune 2015から240人集まるまでとしている。組み入れ基準は18歳以上のISSが15以上の72時間以内に抗凝固療法を開始できない外傷患者で、除外基準は切迫した死に瀕する患者、抗凝固療法を入院前に施行されている患者、入院時にすでに肺塞栓症が認められた患者、妊娠患者、IVCフィルター挿入を行う放射線科にアクセスできない場合とした。回収可能なIVCフィルター群とフィルターなし群にpermuted-blockで施行振り分け、安全面から治療者には割付はわかるようになっている(open-label)。Detection biasを最小限にするため、肺塞栓の診断を厳格なクライテリアで行なうようにした。全ての患者は割付2週後に2ポイント超音波での検査を施行した。症状のない患者で中等の肺塞栓が偶発的に見つかることを避けるため不必要なCTは撮像しない。全ての死亡者はCoronaer's Court of Western Australiaへ送られ、 肺塞栓かどうか十分な検死が行われた。フィルターは放射線医の裁量でデバイス選択がされた。フィルターは事前に長期的留置を指示されていなければ、抗凝固療法が可能になった時点で抜去した。臨床医の判断で抗凝固療法が可能となり次第、開始とする。間欠的圧迫法は外傷のない脚に施行された。コントロール群でも臨床医がフィルターが必要と判断される場合は挿入可能とした。Primary End pointは CTや病理医によって確認された症候性肺塞栓もしく90日死亡とし、Secondary End pointsは抗凝固療法を施行されていない少なくとも7日間生存した患者で7日でも抗凝固を行なっていない患者での症候性肺塞栓、IVCフィルターの合併症、90日死亡、90日での出血イベントとした。先行研究では抗凝固療法を受けない重症外傷患者の9%に肺塞栓が認めた。
20%のクロスオーバーを許容して、9%の発生率がフィルターによって8.5%発生率まで減少(つまり0.5%の発生率)すると想定してパワーを80%とすると240名のサンプルサイズが必要となる(α=0.05)。Primary & Secondary end pointはITT解析が行われた。
コントロール群で4名の致命的な肺塞栓が発生した場合、トライアルは中止と事前に計画した。統計学的パワーから中間解析は行わないこととした。

結果:June 2015-Dec2017の間に1714名の重症外傷患者が発生し1474名(最多は抗凝固薬が開始となった1006名)が除外され240名の患者が組み込まれた。
122名がIVC群で118名がコントロール群に振り分けられた。白人が90%近くしめる集団で年齢性別、外傷の重症度などのベースラインに大きな差はなかった。Primary end pointである症候性肺塞栓もしく90日死亡はIVC群VSコントロール群で17(13.9%)VS 17 (14.4%)でHazard Ratio 0.99[0.51-1.94]でSecondary end pointである7日間抗凝固療法を行えなかった患者での症候性肺塞栓は0/46 VS 5/34(14.7) 0.00[0.00-0.55]であった。

批判的吟味
内的妥当性:
Open-labelであること、
抗凝固が開始できない理由が臨床医の判断であり曖昧であった
サブグループ解析において7日間生存することが前提でありsurvivor bias がかかる
サブグループ解析においてIVCフィルターがあることで抗凝固の開始にpotential biasがかかりSecondary Outcomeの前提で7日時点でのベースラインの均一さが失われてしまっている。
CT撮影を厳格に定義することでdetection biasを軽減できている。
サンプルサイズ推定の先行研究では肺塞栓の発生率であったにも関わらずPrimary Outcomeが肺塞栓と死亡という複合アウトカムとなっており、大きな欠陥がある。
実際の肺塞栓のコンロールでの発生率も5%と予測より少ない値となっている。

外的妥当性
 多くは白人を対象としている。
 本邦では外傷でIVCフィルターを挿入する機会は少ない。
 多施設研究だが95%以上は単施設での症例であった。

Implication
現在、いくつかの学会(アメリカ胸部学会、IVR学会など)では一般的なIVCフィルターの利用を控えるような推奨をしてきている。
2017年の一般的なIVCフィルター挿入についてのメタアナリシスと同様な傾向(有症候性肺塞栓は減少する傾向にあるが90日死亡率に影響は与えない)が今回トライアルの結果でも導かれている。
サブグループ解析で長期間抗凝固療法を開始できない患者において有用性があるように記載があるが、先に述べた点で一概に有用性を評価はしにくいところは注意する点である。
primary outcomeとサンプルサイズ計算でアウトカムが異なっているため統計学的評価は困難であるが、多発外傷でのIVCフィルター留置というアイデアとその分野での初めてのRCTという点で価値は高い。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科