2021.02.12 麻酔科抄読会

Lower or Higher Oxygenation Targets for Acute Hypoxemic Respiratory Failure
N Engl J Med . 2021 Jan 20. doi: 10.1056/NEJMoa2032510

担当:劉先生

今回、劉先生にご紹介頂いたのは今年1月にNEJMに掲載された研究で、呼吸不全により酸素投与が必要となったICU入院患者が対象、PaO2 60 mmHgに管理した群とPaO2 90 mmHg に管理した群で90日死亡率を比較した多施設前向き無作為化試験です。

この研究の背景として、高濃度酸素は人体に有害であると考えられており過去に複数の研究から動脈血酸素分圧で管理した群では、そうでない群に比べ死亡率が高いと報告されていますが、明確な酸素化目標は示されていません。また、近年の報告(N Engl J Med 2020; 382:989-998)では、低酸素投与群のほうが、高酸素投与群に比較し28日死亡率や人工呼吸管理期間に差がなかった等の報告が出ており、今まで一般的に認識されてきた高酸素血症は考えられている程死亡率を下げないという傾向が出てきつつある、ということがあります。

本研究のPICOは、
P:低酸素血症を認め、酸素投与が必要なICU入院患者
I:PaO2 60mmHgを目標に管理(Lower群)
C:PaO2 90mmHgを目標に管理(Higher群)
O:90日死亡率
となっており、2928名が無作為化され、結果はprimary outcomeである90日死亡率も、secondary outcomeで評価されたショック・心筋梗塞・脳梗塞・腸管虚血に関しても有意差はなかったという結果となりました。
質疑応答で、小林先生が酸素の有害性についてPaO2とFIO2のどちらがより影響が強いか、という議論になり今回の研究では2群のFIO2の値は重なっている部分もあり分離はしていない点も結果に影響している可能性について話題となりました。

今年2月のAnesthesiologyに掲載されたRCTでも、CABG術中のPaO2管理目標を変化させることで術後認知機能の差を比較した研究がありました。今後もこの傾向を後押しする研究が出てくることが予想されます。
劉先生、有難うございました。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 藤井 真理映

このサイトの監修者

亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収

【専門分野】
麻酔、集中治療