2024年度JBPOT合格体験記2

麻酔科後期研修2年目の光石と申します。この度、第21回日本周術期経食道心エコー(JB-POT)認定試験に合格し、合格体験記の執筆依頼を頂きました。今後受験を検討されている方々の一助となれば幸いです。以下のような順序で進めていきます。

  1. 基本的な勉強方法
  2. 参考にした資料、ガイドライン
  3. 実際の試験について

1. 基本的な勉強方法
このページをご覧になっている方々は、医師国家試験をはじめとする多くの受験を既に経験されており、それぞれ得意とする勉強方法があると思います。基本的には自分に合う勉強方法で無理なく問題集を解き進めることが最も重要です。私が試験勉強の際に意識していることを2つご紹介いたします。
1つ目はアウトプット重視ということです。「学習の5段階」という考えからも、ガイドラインや参考書を読むだけでは、わかった気になっても人に説明できるほど理解していないことが多いと思います。私が利用したのはAnkiというアプリです。このアプリはユーザーが自分で問題集を作り、それを記憶の忘却曲線に沿ってアプリ側が適切なタイミングで復習を促してくれるというものです。パソコンで問題を作り、隙間時間にスマホで解くことで効率的に学習を進めました。問題の方には画像を貼り付けることもできるので、典型的な画像を貼り付けて問題を作成することで、文章問題だけでなく動画問題にも対応できました。春夏の講習会で強調されていたポイント、覚えるべき基準値(各種弁膜症の重症の基準やSAMのリスク因子など)、市販の問題集を解いて得られたエッセンスを自分でAnkiに入力し繰り返し解いていました。
2つ目はなるべく少ない問題集をしっかり仕上げるということです。実際に使用した問題集等は後述しますが、講習会の動画がとても充実しているので、問題集の数はもっと絞っても良かったかなという印象です。問題集を進める際は以下の方法でとき進めました。
まず問題集を頭から解いていき、「簡単で2回以上解く必要がない問題」、「エッセンスとして得るものがない、問題として古い(後述する赤本によくありました)」ものに関しては問題番号の上に✗印を付けました。「間違えた」、「何かを調べないと解けなかった」、「合ってたが自信を持って解けなかった」問題は■印を付け、Ankiにそのエッセンスを追加しました。2周目は■印をつけた問題のみを解き、同様の基準で■印を付けていき、この時点で新しく得たエッセンスは同様にAnkiに入れました。勉強が進むことで2周目の時点では簡単になった問題は1周目の■印のとなりに横線を引き、3周目は■■印のみを解きました。このような形で1冊の問題集を「仕上げる」感覚で解き進めました。

2.参考にした資料、ガイドライン
参考書の一部は既に絶版になっており、昔から受験者が利用していた問題集が手に入らなくなっているものもあります。自分は以下のものを使用しましたが、動画対策として有名な青本が絶版になっていることを直前に知り(本屋さんで出版社が倒産したことを知りました。)非常に焦った記憶がありますので、参考資料に関してはゆとりを持って購入することをおすすめします。
取り組む順番に関しては、当院でJB-POTを受験された先輩の先生方から、「エコーの原理がよく出題される、文章問題の1/3くらい」「エコーの原理は捨てないほうがいい」とのアドバイスを受け、まず最初に原理の分野に取り組みました。他の分野に比べて理解に時間を要しますが、一度身につけると定着度合いも高いため早期に取り組むことをおすすめします。結果的に原理の分野で高得点を取ることに繋がりました。

以下、私が使用した資料を使用頻度、おすすめ度合いをそれぞれ★で評価しました。

  1. 春夏の講習会、直前講習 使用頻度★★★ おすすめ★★★
    講習会の動画とテキストは最も使用した教材です。オンデマンド視聴終了後も送付されたDVDを繰り返し視聴し、要点となる項目をノートアプリ(自分の場合はNotion)にまとめたり、Ankiに入力したりして活用しました。当院では小児の心臓手術やLVAD等のデバイス挿入などは日々の臨床で経験がないため、講習会の内容が非常に役立ちました。
  2. JCS各種ガイドライン 使用頻度★★ おすすめ★★★
    弁膜症や急性冠症候群、循環器超音波検査の適応と判読などの各種最新のガイドラインは辞書代わりに使用しました。特に後述する通称赤本はデータが古いため、ガイドラインとの照らし合わせが必要でした。
  3. The Practice of Perioperative Transesophageal Echocardiography: Essential Cases 1st Edition 使用頻度 ★ おすすめ★★★
    周術期経食道心エコー連門式症例問題集(通称青本)の原著版です。前述の通り、青本が絶版(日本の出版社が倒産)になっていたためe-bookでこちらを購入しました。Vital Sourceというサイトから購入し、Bookshelfというアプリで動画再生を行いながら問題を解きました。私が購入したのは試験3週間前ごろで、最後の仕上げとして取り組みました。本番の動画問題の難易度はこの問題集よりも高い印象ですが、動画問題対策の教材として他にあるEcho roundsは問題数が少ないため、現時点ではこちらをおすすめします。
  4. 周術期経食道心エコー図―効率的に学ぶために 使用頻度★★★ おすすめ★★
    通称赤本です。一番はじめに取り組み始めました。内容が古かったり、原理の部分が大分細かいところまで聞かれたりしているので本番に適しているかと言われるとやや疑問符はつきます。ただ文章問題、特に原理部分の対策の問題集として、これほどボリュームのある問題集は他にないと思います。先述のやり方で3周取り組みました。
  5. 岡本浩嗣 TEE試験対策ガイドーJB-POT・心エコー図専門医試験徹底攻略 使用頻度 ★ おすすめ★(講習会を受講しないのであれば★★★)
    比較的新しくでた教材のため、最新のガイドライン等にも基づいており、コンパクトによくまとまっています。試験まで時間がない人が1冊仕上げるのであればこの1冊が良いと思います。問題の数が少なめであることと、自分の場合は講習会の動画をメインで取り組んでいたため結果的には使用頻度は少なかったです。原理の部分は万人受けを狙ってかやや公式の羅列になっており、その根本となるところまで解説があればよかったかなと思いました。
  6. 田中直彦 よくわかる!超音波検査に必要な「基礎」 使用頻度★ おすすめ★★
    原理の理解のために購入しました。公式を導くまでの物理学的、数学的な解説がなされており、万人受けの参考書ではないですが、「公式の導出をして覚えるべきことをなるべく減らす」というタイプの方には良いと思います。一部誤植があり、ややマニアックで得点に直接結びつくというわけではないですが、他の参考書では触れられていないとこまで説明されているので、原理の理解を深めることにとても役立ちました。

3. 実際の試験について
実際の試験の印象としては時間がないことと非常に難易度が高いことが挙げられます。わからない問題には時間をかけすぎず、とりあえず全ての問題に目を通すことが結果的に高得点につながると感じました。「直前講習から問題が出題される」という情報は正しく、講習会で強調された内容が選択肢に含まれていましたが、一方で問題の難易度としては予想していたより遥かに高いものでした。正直なところ受験が終わった際には、次年度に受け直すことを覚悟して帰宅したほどでした。現時点で本番と同レベルの問題集はなく、分野としても万遍なく出題されました。後日受験したことのある先生からは「手応えが悪い試験だから」と言われ、少し安心するもモヤモヤしながら合格発表の日を待ちました。臨床に即したよく練り込まれた実践的な問題という印象で、改めて試験を通じて自分がスタート地点に立ったという印象でした。

当院麻酔科では、後期1年目の冬ごろから心臓血管外科麻酔強化月間と称して開心術を担当するようになります。最初は全身管理と手術の流れに慣れることに必死だったため、実際に経食道エコーを自分で本格的に扱ったのは1ヶ月ほど症例を経験したあとでした。植田部長は長年アメリカで心臓麻酔を専門としており、教育環境は非常に恵まれています。予定開心術の前日には必ず一緒に心エコーの動画を見て、翌日の症例に備えていました。心臓血管外科の先生方も、私が描出に難渋していると日々アドバイスをくださりました。当院麻酔科にはJB-POTの合格者が多く、試験直前には「先生、問題出したるで!」と気さくに声をかけてくださったり、自分の理解を確かめる機会をいただいたり、多くの助けがあって無事に合格することができました。この場を借りて深く感謝申し上げます。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 光石 清人

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔