2025.2.20 麻酔科抄読会

担当:初期研修医 福田
指導:劉

High Positive End-expiratory Pressure (PEEP) with Recruitment Maneuvers versus Low PEEP during General Anesthesia for Surgery: A Bayesian Individual Patient Data Meta-analysis of Three Randomized Clinical Trials
Mazzinari, Guido et al. Anesthesiology vol. 142,1 (2025): 72-97.
https://doi.org/10.1097/aln.0000000000005170

2025年1月にAnesthesiologyに掲載された、術中の高PEEP換気とリクルートメント手技の術後肺合併症への影響についてベイズ統計法で解析した論文。
高PEEPとリクルートメント手技が術後肺合併症を減少させることが示唆された。

P:術後肺合併症が中~高リスクの全身麻酔患者
I:高PEEPとリクルートメント手技あり
C:低PEEPとリクルートメント手技なし
O:術後早期肺関連合併症の頻度

背景
術後の手術中の高い呼気終末陽圧(PEEP)とリクルートメント手技が術後肺合併症の発生に与える影響は、まだ明確に確立されていない。ベイズ分析は、利用可能なデータからさらなる知見を得ることができ、解釈がより容易な確率的フレームワークを提供することができる。本研究の目的は、高PEEPとリクルートメント手技の使用が、中等度から高リスクの患者における術後肺合併症を減少させる確率を、治療効果に関する中立的・保守的・積極的な事前分布のもとで推定する。

方法
術後肺合併症の中等度から高リスクを有する手術患者を対象とした3つのランダム化臨床試験の個別患者データに対して、多層ベイズロジスティック回帰分析を実施した。主要アウトカムは、術後早期における術後肺合併症の発生であった。本研究では、高PEEP+リクルートメント手技と低PEEP換気の効果を比較した。事前分布は、治療効果に対する中立的・保守的・積極的な予測を反映するように選択された。

結果
中立的・保守的・積極的な事前分布を用いた場合、高PEEP換気+リクルートメント手技と低PEEP換気を比較した事後平均オッズ比は、それぞれ0.85(95%CI:0.71-1.02)、0.87(0.72-1.04)、0.86(0.71-1.02)であった。事前分布に関係なく、有益な効果の事後確率は90%を超えていた。サブグループ解析では、腹腔鏡手術を受けた患者(オッズ比:0.67[0.50-0.87])と術後肺合併症の高リスク患者(オッズ比:0.80[0.53-1.13])でより顕著な効果が示された。重度の術後肺合併症のみを考慮した感度分析や、異なる不均一性の事前分布を適用した分析でも、一貫した結果が得られた。

結論
高PEEP換気+リクルートメント手技は、術後肺合併症発生の確率を中程度に減少させ、様々な事前分布にわたって一貫して高い事後確率で利益がみられ、特に腹腔鏡手術を受けた患者で顕著であった。

抄読会での議論
・リクルートメント手技の方法は統一されていたのか?
→今回の論文には具体的な内容の記載はなかった。(それぞれのRCTに従う)
・ベイズの統計解析によるネガティブな要素はないのか(事前のものに影響される)?また、ここ最近、ベイズの統計解析が注目されてきている理由はあるのか?
→中立的・保守的・積極的のすべての事前分布に基づき解析されているので、ある程度の信頼性はあると考えられる。今回の研究では、すべての事前分布で同様な結果がでているがどれか一つのモデルでズレがあった時にはその解釈は異なる。従来使用されてきたp値については誤解・誤用があると言われており、頻度主義統計学で有意差がなくてもベイズ統計で分析を行うと差がでることがあり、従来の統計解析に補完する形でベイズ統計解析を利用されることが広がってきている。
・ベイズの統計解析はこれまでの情報を使って行うものであり、メガデータ向きではあるが新規の内容に関して行うには情報が足りないのではないか?どのくらいの情報量があればより正確な解析が行えるのか?
→ベイズではサンプル数は少なくても尤度が出せるので解析自体は可能ではあるが、具体的にどのくらいの情報量が必要かは不明。
・先行研究ではHigh PEEP+リクルートメントvs Low PEEP+リクルートメントなしになっており、リクルートメントの方の影響が大きい可能性もあるのではないか?
→Limitationにも2つの手技の効果を分離できないことが述べられている。術中管理のPEEPのみの管理は、他の研究ではあまり差が出ているものはない。

文責:亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 淡谷直希

このサイトの監修者

亀田総合病院 副院長 / 麻酔科 主任部長/亀田総合研究所長/臨床研究推進室長/周術期管理センター長 植田 健一
【専門分野】小児・成人心臓麻酔