麻酔科抄読会

担当:初期研修医 1年目 津田 正太先生/指導医 河野 宏之先生
論文:Computer-assisted Individualized Hemodynamic Management Reduces Intraoperative Hypotension in Intermediate- and High-risk Surgery: A Randomized Controlled Trial

[背景]
手術中の個々の血行動態を管理するには、血管拡張薬と輸液を正確に投与することが重要である。このような背景から、これらの介入を行う麻酔科医を支援するコンピュータシステムが開発された。本研究では、コンピュータを用いた個別の血行動態管理により、中等度から高リスクの手術を受ける患者の術中の低血圧を軽減できるという仮説を検証した。

[方法]
本研究は、腹腔鏡手術または整形外科手術を受ける38名の患者を対象とした、単施設、並行、2群、前向きのランダム化比較単盲検試験である。対象となった患者は全員、麻酔導入後に橈骨動脈カテーテルを挿入し、未校正のpulse contour monitorに接続した。手動調整による目標指向型治療群(N = 19)では、平均動脈圧を患者のベースライン値の10%以内に維持するためにノルエピネフリンの注入量を手動で調整し、stroke volume indexを最大化するためにmini-fluid challengeを行った。コンピュータ支援グループ(N = 19)では、ノルエピネフリンの調整にはclosed-loopシステムを、mini-fluid challenge(100ml)の注入には意思決定支援システムを用いて、同様のアプローチが適用された。主要評価項目は、術中低血圧、すなわち平均動脈圧が術前のベースライン値の90%未満となった症例の割合とした。副次的評価項目は、術後の軽微な合併症の発生率とした。

[結果]
すべての患者を解析に含めた。術中低血圧は、コンピュータ支援群で1.2%[0.4〜2.0%](中央値[25〜75%])であったのに対し、手動で調整された目標指向性治療群では21.5%[14.5〜31.8%]であった(2群の差は-21.1[95%CI、-15.9〜-27.6%];P<0.001)。術後の軽度の合併症の発生率は両群間で差がなかった(42%対58%、P=0.330)。平均stroke volume indexおよびcardiac indexは、いずれもコンピュータ支援群の方が目標指向性治療群よりも有意に高かった(P < 0.001)。

[結論]
中等度から高リスクの手術を受ける患者において、コンピュータ支援による個別の血行動態管理は、手動で調整された目標指向型のアプローチと比較して、術中の低血圧を有意に減少させる。

抄読会では、麻酔科医がプロトコルに忠実に従い、より頻繁に介入すればコンピューター支援群と同じ結果が期待できるのではないかという指摘や、将来、コンピューターが手術の進行状況に応じて麻酔深度を調整できるようになれば、患者により良い結果をもたらすのではないかという意見もありました。

津田先生、河野先生、ありがとうございました。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 柳 俊文

このサイトの監修者

亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収

【専門分野】
麻酔、集中治療