2021.06.10 抄読会

担当:初期研修医1年目 牛田 雄太先生/指導医 劉 丹先生
論文: Perioperative Methadone and Ketamine for Postoperative Pain Control in Spinal Surgical Patients: A Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Trial
GS Murphy et al. Anesthesiology. 2021 May 1;134(5):697-708.

背景
脊椎固定術を受けた患者はマルチモーダルな疼痛管理戦略(Multimodal analgesia)を適用されるも術後に激しい痛みを訴えることが多い。一方で、NMDA受容体拮抗薬であるメタドンとケタミンはそれぞれ術後疼痛コントロールを容易にすることが報告されている。ケタミンは鎮痛作用を持っており、整形外科手術において低用量ケタミンを使用することで術後オピオイド使用量が大幅に減少した結果を示したメタ解析が2019年のBritish Journal of Anaesthesiaで掲載された。また、メタドンはオピオイドにも作用しており、2017年のAnesthesiologyで掲載された後方固定術に関するランダム化比較試験において、メタドン投与群はヒドロモルフォン投与群に比べ、オピオイドの総必要量が50%以上減少した。しかしメタドンとケタミンを併用した際の効果はわかっていない。

方法
本研究はメタドンにケタミンを併用する(介入群)ことで、メタドン単剤(対照群)と比較して、脊椎手術後の1日目のヒドロモルフォン必要量についてアメリカのNorthShore Evanston Hospitalで二重盲検ランダム化比較試験を行った。
対象となるのは1つ以上の仙骨、腰椎、胸椎の選択的脊椎固定術を受けた18歳から80歳までの患者で、オピオイド乱用歴のある患者などは除外された。
介入群(メタドン・ケタミン群)はケタミン250mgを溶かしたブドウ糖5%水溶液500mlを、麻酔導入から手術終了まで0.3mg/kg/ hの速度で、その後術後48時間までに0.1mg/kg/hの速度で投与された。
また、両群とも導入時にメタドンを0.2mg/kg、5分かけて投与された。術中管理は標準化されており、疼痛管理はレミフェンタニル以外に、フェンタニル(総量200μgまで)及びヒドロモルフォン(1mg)を麻酔科医の判断で使用された。
術後は、NRS<3となるように、まず中等度の疼痛にヒドロモルフォン0.25mg、重度の疼痛にヒドロモルフォン0.5mgを投与された。十分鎮痛できた場合、ヒドロモルフォンPCA(1回0.2mg、10分ロックアウト間隔、1時間1.2mgまで)に移行しPOD3までに外科担当医の裁量で終了された。その後は内服できる場合、ガイドラインに従ってヒドロモルフォン5mg錠及びアセトアミノフェン375mg錠を病棟看護師に投与された。
一次評価項目は、POD1までのヒドロモルフォン使用量で、副次評価項目はPOD3までの痛みスコア、オピオイド投与量、痛みの管理に関する患者の満足度及び合併症と設定された。

結果
患者177人が評価され、その中130人がランダム化された。両群間の患者背景、手術種類、術中オピオイド使用量や退院時間に大きな差は認められなかったが、PACUで最初にヒドロモルフォンを使用するまでの時間には介入群の方が有意に長かった。
一次評価項目のPOD1までのヒドロモルフォン使用量は介入群のほうが有意に減少した(2.0mg [1.0 to 3.0] 対 4.6mg [3.2 to 6.6]; P < 0.0001)。
副次評価項目のPOD3までのオピオイド投与量において介入群のほうが総使用量はすくなかったが、患者満足度や合併症に有意な差を認めなかった。

結論
メタドンにケタミンを併用する場合、メタドン単剤と比較し、術後1日目のヒドロモルフォンの使用量が有意に減少した。

議論
NMDA受容体拮抗薬であるケタミンについて今まで多くの研究が行われており、一部鎮痛作用も示唆されている。今回はケタミンと、オピオイドでありNMDA受容体拮抗作用も併せ持つメタドンとの併用を、メタドン単剤との比較であった。サンプルサイズが約100人以上もある規模のランダム化比較試験であるところは評価すべきポイントである。
また、アメリカではオピオイドの濫用が社会問題になっており、今回はいかにオピオイドの使用を減らせるかについて研究されているため、トップジャーナルを含めて学術界では注目を引くのではないかと考えられる。

牛田先生、劉先生、ありがとうございました。

亀田総合病院 後期研修医 金 顓

このサイトの監修者

亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収

【専門分野】
麻酔、集中治療