これまで漢方医学の成り立ちや基本的な考え方についてご紹介してきましたが、ここで大きく話を変えて「病気の患者さまを治療する」というのはどういうことか、考えてみましょう。
現代の医療では、まずは「患者さまにどういう異常が起こっているか?」を、診察や様々な検査で調べて「診断」をつけることが重要です。ときどき「手っ取り 早く痛み止めを出してくれ」とか「チャチャっといい薬出してくださいよ」といったことを言われますが、これは真っ暗な闇夜の中で「とりあえず走ってくれ」 と言われているようなものです。どのような事故に遭うかわかりませんので、まともな医師ならそのようなことは絶対にしません。
さて、病気の診断がつけば
- どういう異常が患者さまの中で起こっているのか?
- そのままにしておけばどうなってしまうのか?
- どういう原因でそうなっているのか?
- どうすればその異常を治せるのか?
などといったことが分かります。
それらを踏まえ、医療行為がすべからく包含するリスクと治療によって得られるメリットを勘案し、さらに患者さまのご希望を十分汲んで治療の方針が決定されます。

治療にあたっては、薬や手術などといった強力な治療 方法を駆使して患者さまを改善に導きます。治癒が可能なら治癒を目指し、完全に治すことが難しい病気では上手に付き合っていけるように病気をコントロール します。例えば肺炎の患者さまならば、原因になっている菌を突き止め、有効な抗生物質を投与することでその菌の大部分をやっつけます。すると患者さまの免 疫が残りの菌を退治し、炎症で壊された肺の組織を自己修復してまたほとんど元通りに「復興」します。
例えばがんが見つかったなら、切除可能なら外科的にそのがん細胞を取り除きます。すると患者さまの体に備わっている治癒力が、がんを切除したあと丁寧に縫 い合わされた残りの臓器の傷を修復し、その臓器が元通りに機能するように再建していきます。つまり抗生物質や手術といった強力な現代医学の治療手段も、実 は患者さまが持っている自己治癒力(自分で治るチカラ)を前提としているのです。このことは意外に忘れられがちです。
例えば栄養不良のために患者さまの治癒力が十分に発揮できないと、せっかく素晴らしい治療をしてもその後うまく治っていかないことが分かりました。そのた め、現在はどの病院にも入院した患者さまの栄養状態を管理する専門のチームがあって、栄養面から患者さまの治癒力をサポートできるように活動しています。

もっとも… 一人暮らしをしたことのある方ならたいてい記憶があると思うのですが、田舎の親御さんからの電話でまず聞かれるのは「ちゃんとご飯食べてる?」というセリ フだったのではないでしょうか? 世の中の親たちがまず一番に気にかけることが、数十年前まで病院では割とないがしろにされてきたということにはちょっと驚いてしまいますよね。これは病院 での治療はいかに患者さまを治していくかにフォーカスされていたこと、現在よりも若くて元気な患者さまが多かった時代には治る力のことを気にしなくても大 丈夫だったことなどが原因と思われます。
現在はご高齢だったり体力の弱った患者さまが相対的に大変多くなっているので、この患者さまの治るチカラをきちんと引き出す事がとても大切になってきています。
