今回は「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」について解説します。骨盤臓器脱ってご存じでしょうか?女性の骨盤の中にある子宮、膀胱、直腸が下がってきて膣の中に落ち込み、外に飛び出す病気です。以前は子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤などと単独の名前で呼ばれていましたが、どれか一つだけが下がることはないので、現在では総称して「骨盤臓器脱」と呼ばれています。多くの方は膣から下がっているのは子宮だと思っていますが、実は意外や意外、膀胱が下がることが最も多く、内訳は膀胱瘤が6割、子宮脱は意外に少なくて3割程度といわれています。
では、骨盤臓器脱はどれくらいの人に症状が出るのでしょうか?病気自体が聞きなれないので、多くないのでは?と、思っている人もいるかもしれませんが、欧米での疫学調査では出産経験者の40%に骨盤臓器脱が認められるというデータがあるくらいです。恥ずかしくて受診されない場合も多いために正確なデータは不明ですが、日本でも誰にも相談できずに悩んでいる潜在患者さまが非常に多いことが明らかになりつつあります。
骨盤臓器脱の患者さまが訴える症状で最も多いのが、"股の間にピンポン玉のようなものが触れた"ということです。このほかにも、歩く時に何かはさまった感じがある、重いものを持って歩くと何かが出てくるといったものもあります。重症になると常に膣から下がっている状態にもなります。また尿もれや頻尿などの症状を伴うことも多くみられます。
主な原因として、出産が引き金になると考えられています。出産時に骨盤底筋という筋肉が強く引き伸ばされて多かれ少なかれ損傷します。さらに加齢により、この骨盤底筋が膀胱、子宮などの骨盤内の臓器を支えられなくなり、臓器が落ちてきます。
骨盤臓器脱の治療として保存療法と手術療法に分けられます。まず保存療法として、ペッサリーという7cmくらいのリング状の装具を入れ、下がった臓器を元の位置に戻す方法があります。これは何らかの理由により手術が行えない場合や、手術による治療を希望しない場合に行われています。しかしながら、リングによる治療では違和感があったり、長期になると感染や出血などのトラブルを起こしたりすることもあり、あまり快適な治療ではありません。
なので、骨盤臓器脱を根本的に直そうとするなら手術療法になります。従来の手術では子宮を摘除し、膀胱や子宮の周りの組織を縫い縮める方法(従来法)が行われてきましたが、この従来法では縫い縮める組織自体が傷んでいるために再発することが多く(30~50%の再発率)、子宮をとるために体に対する負担も大きいものでした。
従来法と比べて手術時間が大幅に短縮され、患者さまの負担も少なく治療できるのが、メッシュ手術と言われる治療法です。詳しくは別の機会に説明しますが、当院では、いち早くこのメッシュ手術を取り入れ、現在まで約1,000例の手術を行ってきました。傷んだ骨盤底をメッシュで再建する手術で、なんと言っても子宮を温存できるのが最大のメリットです。骨盤臓器脱は今やメッシュ手術で完全に治るようになっています。
子宮を温存でき、体に優しいメッシュ手術について詳しくお知りになりたい方はウロギネコロジーセンターまで相談してください。

ウロギネコロジーセンター長 野村昌良

監修者
亀田総合病院 亀田京橋クリニック 亀田MTGクリニックウロギネ科部長・ウロギネセンター長 野村 昌良
【専門分野】
ウロギネ(泌尿器科と婦人科の中間にあたる分野:骨盤臓器脱、尿失禁)
排尿障害(間質性膀胱炎、過活動膀胱など)