こんにちは。女性スポーツ外来の大内久美です。アスリートのサポートというと、スポーツ外傷や障害に対する整形外科的なイメージが強いかもしれませんが、女性アスリートの健康管理やパフォーマンス向上のためには婦人科的なサポートも実はとても重要です。
女性アスリートの三主徴
女性アスリートが留意すべき3つの項目として、①low energy availability:必要可能エネルギー不足、②無月経、③骨粗しょう症があります。
Low energy availabilityとは運動によって失われるエネルギーが摂取されるエネルギーを上回ることで、簡単に言うと、エネルギーが足りていない状態です。その結果、女性ホルモンを調整する視床下部、下垂体からのホルモン分泌がうまくいかなくなり無月経に発展します。
無月経が続くと低エストロゲン状態が長くなり、閉経後と同じようなホルモン環境となり、低栄養の影響も加わって骨粗しょう症に陥り、疲労骨折のリスクが高くなってしまいます。女性の場合、月経が始まる12~14歳頃にぐっと骨量が増加し、20歳頃に骨量のピークを迎え、50歳前後の閉経頃から骨量は極端に低下します。つまり、骨が最も増加する思春期から20代までに高い骨量を獲得する事がとても重要になります。この時期に栄養不足や無月経になると、獲得できる骨量は減少し、疲労骨折のリスクが高まり、アスリートとしての競技人生においても、その後の生活においても大きな影響が出てしまいます。

骨量増加には食事や運動などの様々な要素が影響しますが、無月経が長く続かないようにコントロールすることがとても重要です。3ヶ月以上月経が来ていない、もしくは15歳を過ぎても月経が始まっていないような場合は是非一度、女性スポーツ外来にご相談ください。
月経痛は我慢するしかない?→No!
「月経痛がひどくて月経中は練習に行くのがつらい。次の試合と月経が重なりそうで憂鬱」そんな相談を受けることがあります。月経困難症(腹痛など月経に伴うつらい症状)には子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患が影響している「器質性月経困難症」と、器質的異常はなく子宮収縮の影響で腹痛が生じる「機能性月経困難症」があり、若年者では機能性月経困難症の頻度が高いことが知られています。
対策としては鎮痛剤の内服が一般的ですが、鎮痛剤が効きづらい場合や毎月同様の症状があって鎮痛剤の内服量が増えている場合など、器質的異常を否定した上で、低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(低用量ピル)での月経コントロールが効果的です。内服中は子宮内膜の厚さが薄くコントロールされるため、月経期の子宮収縮がマイルドになり月経痛が軽くなるというメカニズムです。ホルモンの波もなくなるため、生理前だけ体が重く感じたりイライラしやすかったりなどの症状が生じる「月経前症候群:PMS」に対しても効果があります。エストロゲン・プロゲステロンというホルモンの組み合わせは、ちょうど排卵後に卵巣から出るホルモンと同じで、それを少ない量で継続して補充している形になるので、内服している間は月経が来なくて、内服を中止すると数日で月経が始まります。最近では数ヶ月続けて内服できるタイプの薬もあるので、3~4ヶ月に1回月経になるよう内服でコントロールしているトップアスリートも増えてきています。大会と月経が重なるのを防ぐことも容易になります。もちろん、ドーピングの心配のない薬です。月経痛は我慢しなくて良いんです!
女性スポーツ外来はアスリートが困ったときに駆け込むところではなく、日々の生活の中で気になる症状や心配な症状があった時に、気軽に相談できるような、一緒にコンディションを整えるためのお手伝いができる場所でありたいと思っています。
スポーツ医学科のご案内女性スポーツ外来 大内 久美

監修者
亀田総合病院スポーツ医学科 主任部長 大内 洋
【専門分野】
<膝関節>前十字靭帯手術、半月板手術
<肩関節>腱板断裂手術、肩関節脱臼手術
<その他>関節鏡手術(肘、足)、スポーツ整形外科、再生医学