ちょっとした実験
「骨」というと堅くて丈夫というイメージがあります。でも「軽微な外傷でも骨折します」なんて言われると、「思っているほど丈夫では無いのかも…」と心配になってしまいますね。いったい「骨」はどのくらい丈夫なんでしょうか?
詳しい説明をする前に、ちょっとおもしろい実験をしてみましょう。用意するものはコピー用紙とペットボトルです。まずコピー用紙を二つ折りにして、丸めて両端をセロテープで留めます。円筒ができあがりましたか?究極の「骨粗しょう症椎体」モデルです。そして図のようにその上にペットボトルを載せてゆきます。上手に載せれば6本のペットボトルを載せることができます。紙を丸めただけでも3kgもの荷重に耐えることができるんですね。ここでちょっと衝撃を加えてみて下さい。「グチャッ」と潰れてしまいます。
講演を始める前にこんなパフォーマンスをすると、「オーッ」とちょっとした歓声が上がります。「そ~っと」生活している限りは荷重に耐えることができる、ところがちょっとした衝撃で簡単に潰れてしまう、「骨粗しょう症性椎体骨折」によく似ていませんか?

「骨」はどのくらい丈夫か?
骨はどのくらいの「荷重」に耐えられるのでしょうか?実際の骨で研究した人がいます。亡くなった方の「椎体」を取り出して、ゆっくり上下から圧をかけてゆきます。「椎体」が耐えられる圧は、骨密度(正確には骨の構造も関係します)と比例します。骨塩量が65%(骨密度が正常な人)では6kN(キロニュートン、力の単位です)の圧に耐えることができますが、骨粗しょう症の患者さまの骨は健康な骨の1/3の圧力、わずか2kNで壊れてしまいます。
1kN(=1000N)が約100kgに相当しますので、正常な椎体は600kg、骨粗しょう症の椎体は200kg位の荷重まで耐えることができるというわけです。「骨粗しょう症でも200kgに耐えられるなら、自分の体重なら骨折はしないな」と思われるかもしれません。でもそれは違います。先のペットボトルの実験と同じく、あくまでそ~っと「加重」を加えた場合の話です。

数学モデルでの実験
日常生活では様々な衝撃が骨に加わります。例えば尻もちをついた場合には体重の6.5~9倍の加重が椎体に加わると報告されています。体重が50kgの人なら325~450kgの圧が椎体に加わることになります。骨粗しょう症の椎体では簡単に壊れてしまいますね。
もう一つ有名な実験結果を紹介しましょう。若い元気なボランティア(高齢者では研究できません、本当に折れてしまったら困りますからね)にマットレスの上に尻もちをついてもらい、その衝撃を測定するものです。椎体にかかる圧力は、数学モデルにより算出しています。厚いマットレスでも、4000Nを超える荷重が加わっています。薄いマットレスでは5000N、そして堅い床で尻もちをついた場合には衝撃は8000Nを超えます。先ほどの力学研究と合わせて考えてみると、マットレス上(日本では畳や布団)の転倒でも骨粗しょう症があれば簡単に壊れてしまう、そして堅い床では衝撃が強い場合には健康な人でも椎体骨折を来す可能性があります。

亀田総合病院 脊椎脊髄外科部長 久保田基夫
