祖父さんお祖母さん世代には『脱腸』と伝えた方が知ってる方が多いかもしれません。お父さんお母さん世代でヘルニアと聞くと、『椎間板ヘルニア』をイメージされる方が多いでしょうが、これは別の病気です。
鼠径ヘルニアは足の付け根(恥骨の近く、鼠径部)にヘルニア嚢のう(腹膜の延長の袋)が出てきており、その中におなかの中の腸や脂肪が出入りする病気です。赤ちゃんの場合は泣いて腹圧がかかった時、1才以降では立って遊んでいる時に膨らんでいることが多く、仰向けで横になると引っ込みます。ヘルニア嚢に腸や脂肪が出てくると鼠径部が膨らみます。戻れば平らになってしまいます。出入りしているだけなら痛みもありませんし、症状が無いことがほとんどです。
ただ、まれに『嵌頓(かんとん)』をしてしまうことがあります。腸や脂肪が出てきた状態で根本が締め付けられてしまい戻らなくなってしまいます。根本で締め付けられているために、とても痛いです。腸が出ていれば食べたものが流れなくなりますので数時間の後に吐くようになります。それでもそのままにしておくと、次第に腸に行く血の流れが悪くなって腸が壊死をしてしまうことがあります。
嵌頓は緊急事態なので、夜でも病院(救急)を受診してもらう必要があります。そして嵌頓のリスクがあるために鼠径ヘルニアは手術をして治す必要があります。基本的に自然閉鎖は無いと言われています。鼠径ヘルニアは生まれたばかりの新生児から、立って遊ぶようになる1~3才頃に見つかることが多いのですが、小学生になって見つかることもあります。
ヘルニア嚢は生まれる前から存在していて、何かの拍子に出るようになったと考えられます。成人ではお祖父さんお祖母さん(特にお祖父さん)に鼠径ヘルニアはよく見られますが、これは筋肉(組織)が弱くなるためにヘルニアが出るようになります。そのためお祖父さんに手術をする場合は筋肉を補強するような網目状のシート(メッシュ)をあてることになり、小児と比べて傷は大きく痛みも数日残ります。


小児の手術は足付け根に15㎜前後の傷をおき、ヘルニア嚢の根本をしばります(potts法)。ほとんど痛みはなく、あっても1日前後で普通の生活を送るようになります。男の子の場合、ヘルニア嚢のすぐ横には精巣(睾丸)を栄養する精巣動静脈と精管(将来精子を通す管)があるために注意が必要です。手術時間は男の子で20~30分、女の子で15~20分ほどです。
子供が暴れてしまうと困ってしまいますので全身麻酔下に手術を行います。他に大きな合併症がなければ日帰り手術(朝に来院して夕方には帰る)となります。手術の傷は皮膚のしわに沿っているためほとんど目立ちませんし、パンツの中にも隠れてしまいます。女の子の場合はさらに傷の目立たない腹腔鏡下手術(LPEC法)という選択肢もありますので、詳細は小児外科外来でおたずねください。
1才未満で鼠径ヘルニアを認めた場合、基本的には1才になるのを待って手術を行います。1才まで待てば体力的に余裕があり、組織(ヘルニア嚢)が丈夫になって安全に手術が行えるためです。ただし、嵌頓を起こした場合や女児で卵巣卵管の脱出を認める場合(卵巣滑脱ヘルニア)は1才まで待つ方がリスクが高いので早めに手術を行います。
小児外科 松田 諭
