医療倫理では正しい医療のために、以下の4項目を必須項目として規定しています。
- 自律性の尊重:患者さまの自己決定に沿った医療を行うこと
- 患者さまにとって善いと思われる医療を行うこと
- 患者さまにとって悪いと思われる医療を行わないこと
- 公正な医療を行うこと
この4項目全てを満たすべく、医療者は日々の診療活動をしています。「お任せ医療」に代わり、最近では患者さまの「治療選択の自己決定権」が今まで以上に重視される傾向にあります。がんなどの治癒困難な病気の終末期における治療選択は最も難しい判断が要求されます。この場合に、積極的治療の継続か、痛みや 苦痛を取る緩和ケア中心にシフトするかは、患者さま自身の希望内容が鍵を握っています。
「事前指示」という言葉を知っていますか?
主に延命治療に関する患者さまの医師への治療方針に関する要望書を「事前指示」と呼びます。ここで延命治療には、心臓マッサージ等の救命蘇生処置、人工呼吸器治療、人工栄養投与、様々な治療薬投与など、多様な医療内容が含まれるため、この中のどの治療についての要望なのか、明確なカルテ記載が重要です。(実際には、医師から患者さまにその都度希望を聞いて確認する場合が殆どです。)
治療を希望しない事前指示があれば、医療倫理に規定された上記4項目中の第1項目が存在し、患者さまのご意思は当然尊重されます。ただし、患者さまがいくら治療を拒否されても、医療者が専門家の立場から、治療の方が患者さまの利益が大きいと判断する場合は(上記の第2項目)、検討中の治療の結果起こりうる利益と負担についての詳しい説明の後、患者さまが最終決定を行います。この最終的な決定に医療者は従います。
患者さまが医療内容についての確固とした希望があれば、これを事前指示として医師にカルテ記載をしてもらうことが賢明です。勿論、人の希望は変化するものなので、事前指示はいつでも内容の変更が可能です。患者さまが納得される善い医療、正しい医療が行われるためには、一方向のお任せ医療ではなく、 患者さまと医療者の良好な双方向のコミュニケーションにより、両者が納得して、医療内容を決定することが何より重要です。
事前指示を外来のかかりつけ医師あるいは入院中の担当医師に伝えることで、本来希望しない延命治療を受ける可能性は確実に低くなります。事前指示に関連して以下の点にも留意してください。
- 事前指示の準備によって、自分の最期の過ごし方に想いを巡らし、今の自分や家族を反省する機会を持つことができます。医師との事前指示に関する対話では、自分の希望する終末期における治療内容を再確認できる利点があります。
- 病気療養時には、自分の事前指示が担当スタッフに理解され、自分の希望に沿った治療が行われているか、あるいは将来行われるか、を常時確認することが重要です。
- 認知能力の低下が心配であれば、意思伝達や判断力の障害前に、最も信頼する人物(家族)を意思決定の代理人として決定し、それを文書化、カルテ記載しておけば安心です。
まとめ
進行期、終末期でも積極的治療により病状改善が見込める場合も少なくありません。最初から治療拒否を決め込まず、医療スタッフから治療の利益と負担について情報を得て、話し合いの後、納得の上で最終的な治療決定を行うことが望まれます。
緩和ケア科医師 関根龍一
