先月、院内の全看護師対象に、一般病室で行う緩和ケアでどのような点が困難であるか、調査を行いました。
質問項目ごとに回答数が多かった順に困難な項目を列挙すると、
- 病棟業務が多忙で、病室で時間をかけて患者さまの話を聴くことが困難
- 看護師の緩和ケア看護の専門知識が足りない
- 看護師数が足りない
- 相部屋の患者さまにプライバシーがない
- 看取りの患者さまにも頻回に血圧などの測定を行うこと
などという項目が並びます。
過半数の看護師が上記項目について困難であると回答したことは予想通りでした。緩和ケアチームでは上記項目のうち、自助努力によって改善可能なものがあるか、検討を開始しています。
治癒や救命救急を最優先にする医療と、治癒は目指さずとも苦痛の緩和を最優先する医療では、病棟での対応もおのずと異なってきます。
これまでの典型的なホスピスケアは、血圧、脈拍などのモニターを極力減らし、より自然な形で看取れることを目指します。経験的にその方が、精神的にも落ち着き、全体的なケアが安楽になることが多いからです。点滴も手足のむくみや、腹腔や胸郭に溜まった水分量の増加の原因、さらには苦痛の増加因子となることが多いため必要最小限にとどめることが多いです。
これと比較して、一般病室での末期がんの患者さまはどのように過ごしているでしょうか?通常、モニターは全種類装着で、血圧、脈拍、呼吸数、酸素 血中濃度などはすべて測定します。点滴も一日必要量を投与され、手足のむくみがひどくても、胸や腹に水が溜まっていても、とにかく一日の必要量の点滴が続けられます。体に管は全部でいくつ繋がっているでしょうか?点滴や心臓モニター、酸素モニターに加えて、鼻の管、酸素の管、尿の管、お腹に入った栄養の管など、4つも5つも管があり体に絡まって身動きが取れません。患者さまが末期で混乱状態であれば、点滴の管を知らずに引っこ抜いて血まみれになることの防止策として、手を手袋のようなもので覆い、点滴抜去を防ぎます。患者さまは手がどうにも不自由でつらいので、なんとかこれを外そうとしています。
このような状況を皆さんはどう思いますか?残念ながら、このような状況は珍しくありません。こういった患者さまに緩和ケアチームが介入する場合には、なるべく無駄な管を減らす方向で検討いただいたり、点滴量を減らしたりする提案を行います。
急性期病院にはその医療文化があります。終末期の患者さまであっても、全身状態が悪ければ、とりあえず全員に点滴を継続しモニターを付ける、といった医療が習慣化しています。
しかし、状況によっては苦痛の緩和のためには必要があれば、こうした習慣にも適宜変更を加える勇気を我々は持つべきですし、意識改革が何より重要です。急性期一般病院の医療文化と緩和ケアの介入で加わる医療内容は決して矛盾しない、と私は思っています。一人ひとりの医療者が、一般病室でも必要な緩和ケア介入を適宜加えていけること、緩和ケアが必要だと感じたら、従来であれば習慣的に行っていたことに対し、意識的に再検討し必要があれば変更する作業を恐れないことが最も重要ではないでしょうか。
緩和ケア科医師 関根龍一
