皆様、こんにちは。腎臓高血圧内科の診療看護師の正木励次と申します。診療看護師はあまり聞き慣れない職種かと思いますが、看護系団体の認定資格で、より医学的な側面から診療の補助を行う看護師と認識していただければと思います。今回は保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)についてお話いたします。
腎代替療法を行わない選択肢とは?
これまでの連載でもお伝えしてきましたが、慢性腎臓病はゆっくりと進行し、末期の状態となると腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)が必要となる病気です。当院ではいずれの腎代替療法にも対応しており、治療法の選択をお手伝いする「腎代替療法選択外来」も行っています。
さて、今回のテーマである「保存的腎臓療法」ですが、わかりやすく言うと“透析などの腎代替療法を行わない選択肢”のことです。腎代替療法を行わないということは、生命の維持ができなくなることを意味します。透析や腎移植といった治療法があるのにそれを行わないとはどういうことなのでしょうか?
腎代替療法は腎臓の機能を代替する優れた治療法ですが、それぞれの腎代替療法を行うためには次の条件をクリアする必要があります。
これらの条件が満たせず、腎代替療法を“行うことが難しい場合”、あるいは“行わない方がよいと考えられる場合”に保存的腎臓療法を検討します。
腎代替療法を行うための条件
血液透析 | ・血圧など循環の状態が安定している ・週3回透析施設に通える(病院に通えない場合は透析を行う病院への入院が必要) |
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腹膜透析 | ・自分自身、あるいはご家族の助けで透析を行うことができる |
腎移植 | ・手術に耐えられる体の状態である ・免疫抑制薬の内服ができる ・生体腎移植では提供者(ドナー)が必要 ・献腎移植では長期間の待機日数が必要 |
症状の緩和に主体をおいた治療
保存的腎臓療法は、主に高齢の患者さまで検討することが多くなります。他の病気などで全身状態が良好でない場合や、重度の認知症の場合、寝たきりに近い状態の場合などは、透析を行うこと自体が難しく、がんばって行ったとしてもそれ自体がご本人の負担となってしまうことも考えられます。そのような場合、無理をして透析を行うのではなく、症状の緩和に主体をおいた医療を提供することになります。これを「保存的腎臓療法」と呼んでいます。具体的には、腎不全で生じる高血圧、吐き気、呼吸困難、むくみ、かゆみなどの症状に対し、お薬で対応することになります。時には苦痛軽減のため鎮静剤を使うこともあります。
近年の高齢化に伴い、保存的腎臓療法は注目されてきています。しかしながら、その選択には十分な話し合いが必要です。ご本人が判断できる場合でも、ご家族の意見は重要となります。そのため私たち医療従事者も、判断に必要な情報提供をしっかり行う責任があります。