-だいぶ前になりますが、亀田総合病院報に連載されたエッセイ「世界の小窓から」の中で、「ドイツではぎっくり腰のことを『魔女の一撃』という」と紹介されていました。記憶されている方もいらっしゃるかもしれません。上司のぎっくり腰のエピソードとも重なって、思わずにやっとしてしまいました。
私も同じことをドイツの友人から聞いたことがあります。魔女伝説で有名なハルツを散歩していたときでした。
腰痛の頻度
現在、日本人のかかえている健康問題で最も頻度の多いものはなんでしょうか?
厚生労働省による「国民生活基礎調査」では、第1位が腰痛、第2位が肩こり、第3位が関節痛で、運動器の痛みや“こり”が上位を独占しています。
日本人の約7割以上が生涯に一度は腰痛を経験するといわれています。右記グラフは長塚先生の報告をお借りしたものです(長塚義弘、整・災害外科、1994年)。
腰痛の頻度は、加齢とともに増加する傾向がありますが、どの年代でも発生しています。
腰痛は特別な病気ではありません。
急性腰痛の原因
重いものを持ち上げようとしたとき、急に体をひねったときなど、ほんのちょっとしたきっかけで、腰に激痛が走ることがあります。
まさに「魔女の一撃」。ぎっくり腰(急性腰痛)の主な原因は「腰椎捻挫(ねんざ)」と言われています。多くの場合このような腰痛は、数日の安静で痛みは軽減してきます。
しかし、全ての腰痛が良性の経過をとるとは限りません。椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症などのほかに、骨粗しょう症や転移性腫瘍に伴う圧迫骨折や背骨の腫瘍、炎症など様々な「腰」の病気が腰痛の原因となることが知られています。
脊椎の病気の他にも、内臓の病気(解離性動脈瘤などの循環器疾患、腎炎や尿管結石など泌尿器科疾患、子宮筋腫や卵巣嚢腫など婦人科疾患、胆嚢炎や消化器がんなど消化器疾患など)が腰痛の原因となっていることもあります。また精神医学的問題(うつ病、不安神経症など)や心理的な原因(家庭内の不和、職場の問題など)が腰痛の背景に潜んでいることもあります。
危険な腰痛を見逃さない
このような話を聞くと、「毎日こんなに腰が痛いなんて、何か悪い病気があるに違いない」と心配される方もいるかと思います。まずは『危険な腰痛』を見逃さないことが大切です。
ここで言う危険な腰痛とは、悪性腫瘍、解離性動脈瘤、化膿性椎体炎などの重篤な病気を想定していますが、他にも注意を要する疾患として、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、圧迫骨折などがあります。
次のような症状を伴う方は、早めに病院を受診してください。
- 今までにないような激痛がある
- 楽になる姿勢がない、痛みのために夜も眠れない
- 足の麻痺や脱力感がある、歩行ができなくなった
- 尿が出にくい
- 発熱や発汗を伴う、急激な体重減少がある
上記のような危険な激痛のサインがなければ、あまりあわてることはありません。
腰痛との正しいつき合い方を次回第9話でお話します。
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫