前立腺の役割とは
膀胱の下にあり、尿道を取り囲むように存在します(または前立腺の中を尿道が貫通している)。通常はクルミ大の大きさで直腸の前方に接するようにあるため、肛門から指を挿入すると触れることができます。
前立腺は男性にのみ存在する臓器で精液を作ります。精嚢で7割、前立腺が3割を作ります。射精される精液中には1-5%程度の精子を認め、前立腺精嚢は精子を元気に泳がせるためのエネルギー源かつ精子を運ぶプールのような役割をしています。

前立腺の役割とは
前立腺がんは前立腺の外側(外腺)に発生することが多いです。
前立腺癌は男性に発生する癌の第一位で、一般に進行の遅い癌とされ、治療の必要性がないものもあります。その場合早期に生命に危険が及ぶ可能性は高くありません。しかし、悪性度、深達度や転移の有無によっては、アグレッシブに進行し生命予後にかかわることもあります。
前立腺癌は加齢とともに増え、食生活の欧米化、有用な腫瘍マーカー(PSA)により発見率が増えています。前立腺がんの治療を成功させるカギは前立腺がんを早期にみつけることです。
症状
初期段階では、尿道側に発生することが少ないため症状がありません。
進行がんの場合排尿困難、尿勢低下、肉眼的血尿、精液に血が混じる、腰痛、体重減少、勃起不全などの症状があります。
原因
前立腺がんの原因はいまだ定かではありませんが、前立腺組織のDNAの障害によって引き起こされ、損傷されたDNA情報が次々にコピーされ異常細胞となり(ガン)増殖すると考えられます。異常細胞は近くの組織に浸潤し、正常組織を壊し進行していきます。ある程度進行すると、リンパ管や静脈内にも入り込み、異常細胞が全身に飛び転移という形で増殖し続けます。
前立腺がんのリスクファクター
加齢 : 50歳を超えたらPSA検査を受けましょう。
家族歴 : 親族に前立腺がんがいらっしゃる方は前立腺がんのリスクが高くなります。もし、乳がんの遺伝子と知られるBRCA1やRBCA2などの家族性の遺伝子があると前立腺がんのリスクが高くなる可能性が指摘されています。
人種 : 原因はわかりませんが、黒色人種が一番のリスクの高い人種として知られています。
肥満 : 一般の健康男性と比べ肥満男性が様々な理由で前立腺がんのリスクファクターとなります。肥満の方は前立腺がんの進行や初期治療後の再発のリスクが高くなると言われています。
前立腺がんの予防
食事摂取 : ビタミンや栄養価の高いフルーツや野菜、穀物を摂取し、体重を増やさないようにすることで、細胞の修復やストレスを軽減できる可能性があります。
運動習慣 : 運動習慣は身体の健康を改善します。体重コントロールや気分の改善に役立ちます。無理をせず最初は適度な運動から始め、徐々に時間や日数を増やしていくと良いと思います。
前立腺がんの診断
PSA検査
Prostate Specific Antigen(前立腺特異抗原)の頭文字をとったものです。前立腺の組織で作られるたんぱく質で他の臓器で作られることはありません。
前立腺の細胞が壊れると内部に溜まっていたPSA(蛋白)が放出されこれが血管内にも増えるために血液検査でPSAの異常としてとらえることができます。PSAが上昇するということは、前立腺の組織が壊れていることを意味しますから前立腺の病気があると考えます。前立腺の病気とは前立腺炎(感染)、前立腺肥大症、前立腺がんなどの可能性があります。PSAが基準値よりも上回った場合は専門医に相談することをお勧めします。
年齢 | PSA基準値 |
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40~49 | 2.5ng/mL以下 |
50~59 | 3.5ng/mL以下 |
60~69 | 4.5ng/mL以下 |
70~79 | 4.5ng/mL以下 |
直腸診
直腸から人差し指で前立腺の大きさ、痛み、硬結などを診察します。
Ultrasound(超音波検査)
腹部あるいは経直腸的に前立腺の大きさや異常陰影を確認します。音波を利用した検査機器で前立腺がん診断や生検時に利用されます。
Magnetic resonance imaging (MRI)
強い磁場を利用した検査で前立腺内のイオンの分布や動きをとらえ、前立腺内の異常がないかを調べます。MRIで癌が疑われ場合は、その部位を生検するときや手術あるいは放射線治療に役立ちます。また、経年的にも比較することができるため新病変の発見や、進行など診断や治療効果判定にも利用されます。
Computerized tomography (CT) scan
肺や肝臓またはリンパ節などへ転移が無いかを調べます。MRIは局所臓器の組織の変化を診断することにすぐれますが、全身となると時間がかかり定期的なフォローアップには適しません。空間分解能が高く、検査時間が短いCTで全身の検索を行います。
Bone scan(骨シンチ)
前立腺がんの転移部位は骨が非常の多く、骨シンチにて骨転移が無いかを調べます。
前立腺生検
前立腺内にがんがあるかどうかを最終的に決める検査となります。前立腺内の組織を針で採取します。病理医が顕微鏡でがん細胞があるかどうか、がんの悪性度などを調べます。前立腺生検
【経会陰式前立腺生検の短期入院プログラム】
2泊3日で通常行っておりますが、ご希望に応じ1泊2日で施行することもできます。
下半身麻酔(脊椎麻酔)の後、会陰から14本組織を採取します。
スケジュール:金曜日・土曜日午前入院、午後下半身麻酔にて前立腺生検を施行し翌日退院。
尿道カテーテルは通常留置されません。
入院日 | 翌日 |
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10時入院 | 出血、発熱チェック |
入院オリエンテーション | 退院 |
PM:エコーガイド下経会陰式前立腺生検 尿道にカテーテルは通常入りません。 |
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3時間後:水分食事摂取 安静度フリー |
悪性度について
Gleason score.:グリソンスコアと呼ばれます。世界中で最も一般的に用いられる悪性度(grade)診断です。1~5段階に分類され、2か所を数値化し足し算で表します。3+3=6~5+5=10が治療対象となります。 (3+3=6:低悪性度 5+5=10高悪性度)

前立腺がんの病期分類

前立腺がんの治療について
すぐに治療が必要ないかもしれない
グリソンスコア3+3=6で病変がかなり小さいと予想される場合はPSAやMRIなどで経過観察し進行をチェックしていきます。これをアクティブサーベーランスと呼びます。超高齢男性や心肺機能が悪い方へは積極的に選択されることがあります。
外科的に治療する
ロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術
腹部に6か所機器を挿入する穴をあけ手術を行ないます。手術中は気腹(二酸化炭素)で腹部を膨らまし手術するため、良好な視野と少ない出血量で手術が行われます。前立腺と精管精嚢を切除し、周りの組織を一緒にくっつけて取り除きます。悪性度が高い方は積極的にリンパ節郭清を行います。
また、転移のない局所去勢抵抗性前立腺がんなら切除することで根治する可能性もあります。
神経温存について
病変が片側だけの場合は勃起神経を温存する手術が選択することもできます。神経を温存した場合、約6割の方の勃起が可能です。
また、転移のない局所去勢抵抗性前立腺がんなら切除することで根治する可能性もあります。
放射線で治療する
IMRT
体の外から放射線のハイパワーエネルギーで癌細胞を死滅させます。放射線治療医がCTで前立腺の大きさや形などを考慮し、治療プランを作成します。週5日間で約6週間の治療期間がかかります。

Brachytherapy(小線源治療)
体内へ放射線を発するシードを前立腺内に埋め込み前立腺がんを死滅させます。(当院では行っておりません)

ホルモン療法で治療する
内分泌療法とも呼ばれます。前立腺がんは男性ホルモンが増殖因子となり前立腺がんの成長を助けます。男性ホルモンを前立腺がんの餌(エサ)と考えるとわかりやすくなります。エサがなくなると前立腺がんは増えることができなくなるため、自然にがんが死滅していきます。
男性ホルモンは精巣(睾丸)で作られるためこれを摘出することを外科的去勢術と呼びます。外科的去勢術は一般に転移がある進行がんの方に施行されます。
睾丸を取る以外には、LHRHアンタゴニストやLHRHアゴニストといった製剤があり治療に用いられます。
また、精巣からだけではなく副腎からも5%男性ホルモンが分泌されているため抗男性ホルモン剤の内服することで完全に男性ホルモンをシャットアウトするホルモン治療をCAB(combined androgen blockade)療法またはMAB(maximal androgen blockade)療法と呼ばれています。
この去勢による治療が長く効果を発揮することもありますが、3-5年で男性ホルモンを餌にしなくても増殖できるがん細胞が現れ始めます。これを去勢抵抗性前立腺がんとよび、世界中で治療研究が進む分野のため続々と新規ホルモン剤や化学療法製剤などが開発され治療のオプションが増えてきています。

去勢抵抗性前立腺がんになったら Castration-Resistant
Prostate Cancerの頭文字からCRPC(シーアールピーシー)とも呼ばれます。
AWS(Androgen withdrawal syndrome)治療
抗男性ホルモン剤を一旦中止することで、治療効果が現れることがあります。
化学療法(抗がん剤)
成長の早いがん細胞を死滅させる薬です。通常腕の血管内から点滴にて薬剤を投入します。3週間~4週間のサイクルで投与することで治療効果を発揮します。ドセタキセルやカバジタキセルといった治療薬剤があります。
新規ホルモン剤
より強力に男性ホルモンをブロックするアビラテロン、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミドといった薬剤が続々と増えてきています。
前立腺がんの治療法のまとめ
局所的治療
PSA監視療法(経過観察) | 定期的なPSA値やMRIの検査および再生検など |
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手術療法 | ・前立腺全摘除術(開腹手術・腹腔鏡下手術・ロボット支援手術) |
放射線療法 | ・外照射法(IMRTなど) ・組織内照射法(密封小線源永久挿入治療など) |
全身的治療
PSA監視療法(経過観察) | 定期的なPSA値やMRIの検査および再生検など |
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内分泌療法(ホルモン療法) | ・前立腺全摘除術(開腹手術・腹腔鏡下手術・ロボット支援手術) |
その他の治療 | ・化学療法(抗がん剤による治療)など |
治療を決めるのは
- ご本人の希望
- 全身状態、合併症
- がんの悪性度・進展度
- 年齢
となります。
2022年5月
亀田総合病院 泌尿器科
部長 安倍 弘和
