臨床心理士と言うと、心療内科・精神科の患者さまとお話をする、いわゆる「カウンセリング」のイメージが強いかもしれません。しかしながら、身体の病気になると、うつ病になる可能性が上がるという研究もあり(表1)、当院の臨床心理室では、そういった患者さまへの心理的なサポートを行っています。腎移植を行うレシピエント、ドナー(腎臓の提供者)、それぞれに対して継続的なサポートを行っています。
表1身体疾患におけるうつ病の合併率
疾患 | うつ病の頻度(%) |
---|---|
がん | 20~38 |
冠動脈疾患 | 16~23 |
糖尿病 | 8.5~27.3 |
血液透析 | 6~34 |
パーキンソン病 | 28.6~51 |
- 千田ら 臨床精神医学 2006 35(7)927~933 より抜粋
今回は、腎移植の過程を、①移植の決断をする前、②決断をしてから実際に移植をするまで、③移植を行った後、の3段階に分けて考えて、それぞれの段階で起こりやすい心理について説明をしてみたいと思います。
①移植の決断をする前
移植をするにあたっては、当然レシピエントご本人のみならず、ドナーの方も一緒に決断をしなくてはなりません。決断をするまでには、医師や看護師の話を聞いて、考えて、話し合って、それぞれが納得した形で決められることが必要ですが、実際には不安や焦りといった感情が出てきて、冷静に決断をすることが難しくなる場合があります。人間には、不安になりそうな状況に直面すると「何とかなる」「大丈夫に違いない」と思い、自分にとって都合の良い情報しか見えなくなる場合もあれば(これを「楽観主義バイアス」と言います)、逆に極端に悲観的になる場合もあり、そういった考え方が冷静な決断を難しくさせてしまうわけです。
②決断をしてから実際に移植をするまで
決断をして、いざ移植開始に向かって検査などが始まると、手術の不安が大きくなったり、本当に移植が出来るのか心配になったりする場合が多いのですが、レシピエントによっては手術後の状態について過度に期待をされる方もいます。その両方を行ったり来たりして気持ちが不安定になる方もいます。
③移植後
移植を無事に終えた後、多くのレシピエントは月日が経つ毎に徐々に不安が減少し、身体的にも精神的にも元気になっていきます。しかしながらドナーの方の中には、腎臓の一部を失ったことで不安感が徐々に高まっていく人もいます。
またレシピエントの方は、透析などの治療から解放されると同時に、周囲から「健康な人」と見られることになります。それまでは「病気だから」と許されていたことが、突然許されなくなり、レシピエント本人がその変化に戸惑ってしまうこともあります。逆にレシピエント本人が「今まで入院で休んでいたし、その分、頑張らなければ!」と無理をしすぎてしまうこともあります。透析の期間が長かった人の場合に、そういったことが起こりやすいようです。
以上、移植前から移植後までを3段階に分けて、その時に起こりやすい心理を説明してきましたが、どの段階でも共通点としては、「考え方が極端に傾きやすい」ということが挙げられます。考え方が極端になると、自分の考えと違う意見が頭に入って来にくくなって、どんどん極端な方向に考えが行きがちです。そうならないためにも、移植に関しての不安は一人で抱えず、医療者や家族、友人などに話をして、今の自分の気持ちや考え方を振り返ってみることが有効です。臨床心理室では、そのためのサポートを行っています。
第12話(最終話)では、腎移植とリハビリテーションについてお話していきたいと思います。
腎移植科のご案内
https://medical.kameda.com/general/medi_services/index_189.html亀田総合病院 臨床心理室 富安哲也
