不妊が身近なカップルの出来事であるにも関わらず、不妊のカップルは子供が出来づらいという事実だけでなく、周囲に正しく認識されないことで傷つ き悩んでいます。なかなか大きな声にならなかった不妊カップルの伝えたいこと、望むことが不妊で悩む患者団体の活動により、少しずつ医療の現場にも伝わる ようになってきています。何が望まれているのかを知って頂くとともに、当不妊生殖センターはその声にどう応えようとしているのかを紹介しようと思います。
1.ART(生殖補助医療技術)に望まれていること
現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会「Fine(ファイン)」はインターネットを活動拠点に活動を進め(http://j-fine.jp)、日本 でNPO法人の認可を得た団体です。その団体が行ったアンケートで当事者の集まった声の中から多かったものが論文(ファイン代表:松本亜希子、産婦人科の 世界、第56巻8号)で紹介されています。
現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会「Fine(ファイン)」- 安全面に万全を期して欲しい
- ちゃんと納得のいく説明をして欲しい
- プライバシーに配慮して欲しい
- 患者の意見を聞いて欲しい、自分の意見を押し付けないで欲しい
- カウンセリングを行って欲しい
- 費用が高い
- もっと患者の心情を察して接してもらいたい
- 法律や学会のガイドラインは当事者の気持ちも考慮して欲しい
- ドナーを認めてもらいたい
これらは、不妊生殖の分野に関わらず医療に広く望まれることですが、ART(生殖補助医療技術)の治療では、生殖細胞を取り扱う特殊性、専門性の高い治療 (専門的知識が必要で解りづらい)、ストレスを受け易い状況、高額な費用を自己負担しなくてはならない現状から、よりこれらの要望への配慮が必要と思われます。
2.不妊生殖センター(ARTセンター)の取り組み
当施設では、前述したような患者さまの声を意識し、カップルが働きながら心穏やかに問題を解決できるように設備の設計を行い、運用を行っております。一般外来とは別にセンターを設置し、専用の待ち合いと外来を設けプライバシーにも配慮しました。
- 納得して治療に参加して頂けるよう、説明の時間を十分にとる、検査の結果を渡す、説明の参考資料を充実させる、説明会を開催するなどを行います。
- 安全な質の高い医療を提供できるよう、専門スタッフが従事し、最先端の設備を導入しました。安全や取り違え防止のために同じ機器を2系列用意し、無停電電源複数のセキュリティーシステムを導入し、管理は品質管理システムを用いて行っています。
- 治療の選択にあたっては、十分な説明の後に患者さまに選択をして頂いております。
- 相談やカウンセリングのための相談室を2部屋用意しました。不妊症領域のカウンセリングを行える専門家は少ないため、患者さまと一緒に造りあげていきたいと思います。
- 一般不妊症の治療(保険適応あり)を充実させることで自費での費用負担を軽減させる他に、ARTの治療に際しては薬価の低い薬剤を積極的に取り入れて患者さまの費用負担を抑えています。
- 日本産婦人科学会の認定施設としてARTを行うため、学会のガイドラインを遵守します。倫理的、社会的制約もあり、必ずしも患者さまのすべての要望をかなえることはできませんが、亀田メディカルセンターの倫理委員会による承認を得ながら、患者さまの希望をかなえる努力をいたします。
- 夜間や土曜、日曜の専門外来を開設して、働くカップルも治療が受けられるよう応援します。
