脳血栓症に対する血栓溶解療法について引き続きお話いたします。
人間の脳細胞が虚血(つまり血液が供給されていない状態)にとても弱いことはよく知られております。他の内臓や四肢末梢の臓器や組織、たとえば臓器移植や、切断された指や腕が時に再接着術により生き返ることからもわかるように、数時間血流が無くても、適切に保存された臓器ならば血流を再開させることで再びその臓器は本来の機能を取り戻せます。
ところが、神経細胞は虚血に弱く、ほんの数分間虚血に陥っただけでも神経細胞は死んでしまい、脳梗塞を来たします。一度死んだ神経細胞は特別なことがない限り再生しません。心臓不整脈などが原因で脳血栓症になった状態では、すでに一部の脳細胞は壊死(梗塞)に陥っているものの、その死んでしまった細胞の周囲にはまだ血流が低下しているだけで、死んではいない細胞が残っております。このまだ死に至っていない細胞は機能していないものの、充分な血流が供給されれば再び機能することが期待されます。
再開通させることにより壊死に至らず生き返る可能性の残された部位をペナンブラと言い、脳梗塞一歩手前の状態と考えられております。したがって血栓で詰まってしまった脳血管を早期にカテーテルなどを使って再開通させることができれば、脳梗塞の拡大を防ぐことができ、結果、早期のリハビリや後遺症を最小限にとどめることができます。
ただし脳血栓症の患者さますべてにこの血栓溶解療法が有効とは限りません。いくつかの条件をクリアしないと手術の効果が無いばかりか、むしろ脳出血などのより重症な合併症の危険が高まるのです。
- 亀田京橋クリニックでは診察を行い、治療の必要な場合は鴨川の本院(亀田総合病院)で行います。
文責:脳神経外科 田中 美千裕
<脳血管内治療担当部長>
監修者
亀田総合病院亀田脳神経センター 脳神経外科 主任部長/脳血管内治療科 主任部長 田中 美千裕
【専門分野】
脳卒中の外科治療、脳血管内手術、脳機能解剖学、脳循環代謝学、脳動脈瘤に対する血管内手術、頚動脈ステント術、脳血管奇形、硬膜動静脈瘻、脳動静脈奇形、脊髄血管奇形、顎顔面血管腫