1. エックス線とは?
みなさん、エックス線(レントゲン)撮影といえば聞いたことのある方は多いと思います。健康診断などで、「息を吸って・・・とめてください」といわれる、そうあれです。では、エックス線とはどんなものなのでしょうか。
エックス線は、1895年にドイツの物理学者、W.C.レントゲン博士が真空管の実験をしているうちに発見しました。レントゲン博士は、それが”見えないが、確かに存在する”ので、「謎の光線」と言う意味で”エックス線(x-ray)”と名付けました。日本では、発見者にあやかって”レントゲン”と呼ばれることが多いようです(当の博士は、それを嫌っていたという説がありますが・・・)。
エックス線は、エックス線管とよばれる特殊な真空管で発生させることができます。この真空管に高い電圧をかけると陰極から電子が飛び出し、陽極へ向かいます。電子が陽極に当たるときに、そのエネルギーの一部がエックス線として放出されます。スイッチを切れば、当然エックス線は発生しません。
エックス線には主に、
- 物体を透過する
- 写真の乳剤を感光させる
- ある種の物体にあてると発光現象を起こさせる
- そのままでは、人間は感じることができません(見えないし、痛くもありません)
- 使い方や量を誤ると、癌の発生率が上がったりするなど、人間に害を及ぼすことがあります
などの特徴があります。(1)~(3)の性質は、まさにレントゲン撮影の原理そのものです。体の中の状態を、容易にかつ詳しく知ることができます。(4)~(5)は、危険性に関することです。感じることができないということは、検査に苦痛が伴わないということでもあるのですが、逆に「どれだけ浴びてもわからない」ということでもあります。しかし、われわれ診療放射線技師が、法令にしたがって定期的にエックス線の量を測定したり、日々の検査ではエックス線による身体への影響が無視できる程度ですむようにコントロールしています。
たとえば当院では胸部のエックス線撮影1回で、年間の自然放射線による被ばく線量のおおよそ1/10から1/15、腹部で2/3程度です。
2. エックス線一般撮影のいろいろ
エックス線一般撮影は、エックス線を人体にあてて、その透過光を画像化する検査です。画像化にはフィルムまたはエックス線を検出できる特殊な装置を用います。
2-a. 胸部エックス線撮影
エックス線撮影というと、もっともよく知られているのがこの胸部撮影でしょう。健康診断のほか、さまざまなケースで撮影が行なわれています。胸部は、心臓や大動脈などの大血管、肺や気管(支)などの呼吸器、それらを守る肋骨などの胸郭・・・で構成されています。簡便に行なえるうえ負担も非常に少ないため、これらの臓器に対する検査ではしばしば行なわれています。
2-b. 腹部エックス線撮影
腹部の軟部組織や、腸管内や外の空気像、石灰化像、骨などが写ります。腹部には多様な臓器があるので、その適応も広く、撮影の頻度も比較的多いです。
2-c. 整形領域のエックス線撮影
全身の骨病変に対して行なわれます。骨折や、そのほかさまざまな原因による骨の変化を評価できます。また、実際には写真に写らない靭帯などの軟部組織も、骨の状態からある程度評価することができます。
左の写真は、股関節を中心に骨盤から大腿骨までを撮影したものです。
骨の撮影では、1部位につき2方向(以上)が基本です。方向によって、見え方がこれだけ違ってきます。
腕の症状でも、神経の病気が疑われれば頸椎の写真を撮ることもあります。これは腕の神経が頸椎の隙間を通っているためです。
2-d. 歯科・口腔外科領域のエックス線撮影(パントモグラフィ)
専用装置を使って、立体的な歯列を平面的なエックス線写真として撮影することが出来ます。
2-e. 骨密度測定検査
骨密度とは、簡単にいうと”骨の丈夫さ”を調べる検査です。年齢を重ねると、誰でもこの骨密度が低く(=骨がもろく)なってきますが、それがある程度以上に進むと、骨粗しょう症という状態になります。すると、ちょっとしたことで骨折してしまうようになってしまいます。
骨密度を測定して骨の丈夫さを評価し骨粗しょう症を予防することは、これからの老齢化社会(長寿化)が進む中で重要性は増していくと思われます。 検査時間は、5分から10分ほどです。当院の装置はエックス線を使っていますが、その量はごく微量ですので、その影響はまずありません。ただし、妊娠中のような場合は、担当医師または技師へご相談ください。
左が測定画像です。右側が測定結果を統計データ上にプロットしたものです。このように、測定結果を統計処理して治療の指針としていきます。
同様に大腿骨頸部についても測定を行うことがあります。
3. エックス線検査における放射線被ばくについて
放射線は現代の医療に欠かせませんが、短期間のうちに大量に浴びると身体への影響も問題となることがあります。ただし、通常、必要な検査等をお受けいただく場合は放射線の影響を心配する必要はありません。
放射線検査における被ばく線量の最適化プロセスを推進するためのツールに、診断参考レベル(DRLs)があります。(国単位で報告されています)
当院ではこの日本の診断参考レベルを放射線検査の指標として用いています。
活用としては、DRLsの値より高い場合は、適正な線量の見直しをし、低い場合は画質と診断能の担保が出来ているかを確認し、検査の被ばく線量の最適化を行っています。
参考)日本の診断参考レベル(DRLs)と当院との比較
胸部正面 : DRLs 0.4mGy 当院 0.1mGy
腹部正面 : DRLs 2.5mGy 当院 1.34mGy
頸椎正面 : DRLs 0.8mGy 当院 0.31mGy
腰椎正面 : DRLs 3.5mGy 当院 1.29mGy