中島先生が複十字病院での研修について勉強会で発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。今回は、中島主任部長が、当院理学療法士とともに参加した複十字病院での研修について紹介しました。
清瀬・東村山エリアは、かつて結核の治療・療養の街として発展してきた背景があり、日本の呼吸リハビリテーションの黎明期を支えた地域として位置づけられます。研修では、その歴史的文脈も踏まえながら、複十字病院における肺NTM症診療と呼吸リハの実践が紹介されました。
肺NTM症における呼吸リハの位置づけ
複十字病院の整理では、肺NTM症の呼吸リハビリテーションは気道クリアランス療法(ACT)を中軸とし、咳・痰症状の軽減による健康関連QOLの改善、さらに排痰後の換気改善を介した呼吸機能・運動能力の底上げを狙うという、非常に臨床的で実装可能な目的が明確化されていました。複十字病院と当院において、重症度が異なるとはいえ、複十字病院のリハビリテーション科からの「すべての肺NTM症および気管支拡張症例に提供されるべき治療」というメッセージは、当院の外来・病棟実臨床に外挿する上でも重要な視点だと感じました。
また、肺NTM症患者の身体機能は一様に低下しているわけではなく、握力や膝伸展筋力は概ね保たれている一方、持久力(ISWD)はやや低下しているというデータが示されました。重症例で顕著な体重減少がみられる点も含め、「運動できるから不要」ではなく「排痰と運動を継続するための体力維持が必要」という理解につながります。
ACTの実際:本質は“基本動作の再現性”
ACTにはさまざまな手技・補助が含まれますが、基本は咳嗽・ハフィング・体位排痰であり、必要に応じて器具や徒手療法、加湿・吸入などを組み合わせるという整理でした。
特に印象的だったのは、アクティブサイクル呼吸法(ACBT)の位置づけです。
呼吸コントロール、胸郭拡張運動、強制呼出手技(ハフィング)という3要素を患者背景に合わせて回す、という原則が、自己排痰の“型”として非常に分かりやすく提示されていました。
自己排痰法の一連の流れは、体位排痰 → 深呼吸 → ハフィング → 咳嗽となっており、この順序を安定して再現できることが最も重要で、CTや聴診所見から“痰が動きやすい部位”を推定し、適切な体位を患者さんと一緒に作っていくプロセスが核になる、という点は当院でもすぐに活かせるポイントだと感じました。
一方で、排痰法は患者さんの習得が簡単ではありません。複十字病院では外来での継続的なフォロー(定期的な指導機会の確保)を前提に体系化されている印象があり、当院の外来動線・診察室運用の中でどう現実的に組み込むかは、今後の課題として共有されました。
器具は“補助輪”、主役は基本手技
エアロビカやアカペラ、フラッターなどの器具は、呼気陽圧と振動を利用して痰を剥がしやすくし、気道虚脱も防ぐという合理的な補助として紹介されました。
ただし中島先生からは、「本質は体位排痰・深呼吸・ハフィング」というメッセージが強調され、器具導入の有無にかかわらず基本動作の質を担保することが重要だと整理されました。
排痰指導の“効果の見え方”
排痰指導の成果は、咳が一日中だらだら続く状態から、朝夕に“まとめて排痰できる”状態へ変わることで可視化される、という事例は非常に説得力がありました。
これにより日中の外出や活動性が保たれ、患者さんの生活の自由度が上がるという視点は、菌陰性化だけでは測りきれない治療価値を端的に示していると思います。
具体的な実施の目安として、1日2〜3回、1回20分程度、実施前に少量の水分摂取とストレッチで胸郭を動かしやすくする、という実践的なポイントも共有されました。
また「痰が出る感じがしない」という患者さんには、普段から練習しておくことで喀痰検査時にもスムーズに検体が出せるという説明が有用で、検査とセルフケアをつなぐ指導の工夫として当院でも取り入れたいと感じました。
鎮咳薬のジレンマと、吸入治療の最適化
咳・痰症状に対して、排痰指導が十分に行き届いていない可能性があること、また痰が主体の咳に鎮咳薬を漫然と用いると排痰機会を奪い、症状をかえって長引かせうるという指摘がありました。排痰指導が標準化・定着すれば、鎮咳薬の必要性を見直し、処方を適正化できる余地があると感じました。
さらに、痰による気道抵抗の増大が吸入薬の末梢到達を妨げる可能性が示され、「排痰をしてから吸入する」という多職種連携の指導ポイントが強調されました。特にALIS(アリケイス)などは、咳き込みの軽減と薬剤到達性の観点から排痰後の吸入が推奨されるという整理は実臨床に直結します。
栄養・サルコペニアへの目配り
肺NTM症では筋肉量は比較的保たれている一方で脂肪量が少ない傾向があり、低BMIは予後不良因子となるため、運動療法と同時にエネルギー確保(補食など)を意識する必要がある、という点も重要な学びでした。先日フィリピンから迎えて臨床研修を行っていただいた3名の栄養学のスペシャリストと共に臨床研究を企画しています(詳細は以下の記事をご参照くださいhttps://www.kameda.com/depts/pulmonary_medicine/entry/04770.html)。
最後に、お忙しい中ご対応いただきました複十字病院リハビリテーション科の髻谷満先生をはじめとする皆様に、心より御礼申し上げます。
また、当科医師の6カ月間の院外研修を受け入れていただいております同院呼吸器内科の皆様にも、深く感謝申し上げます。
当科では、2024年4月より非結核性抗酸菌症専門外来を設けております(https://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/post_207.html)。
今回の勉強会で中島先生が紹介されたように、患者さんのQOL向上に直結する気道クリアランス療法の重要性を当院の診療にも丁寧に取り入れながら、当科全体で質の高い気管支拡張症・NTM診療の提供を目指してまいります。
執筆担当者:亀田総合病院 呼吸器内科 舟木 佳弘