永井先生がGINA2025とMART療法について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。
今回は、永井先生がGINA2025(Global Initiative for Asthma)とMART療法(Maintenance And Reliever Therapy)の位置づけについて解説しました。
GINA2024→2025:アップデートの概要
・Type2炎症バイオマーカーの整理
末梢血好酸球数や呼気一酸化窒素(FeNO)は喘息の診断補助に有用ですが、単一測定値への依存は避け、臨床文脈で慎重に解釈することが強調されています(年齢・性別・喫煙状況・測定時刻などで値が変動し得る)。
・喘息増悪リスク因子の明確化
SABA過量使用(200吸入入りデバイスを年間3本以上)、不十分なICS(未処方・アドヒアランス不良・不適切な吸入手技)、併存症(肥満・慢性鼻副鼻腔炎・GERD 等)やアレルゲン曝露、喫煙/電子タバコ/大気汚染、心理社会的問題、低肺機能(特にFEV1<60%)・気管支拡張薬投与後のFEV1改善の大きさ、Type 2バイオマーカー高値、過去1年の重症増悪や生涯における挿管/ICU歴などが整理されました。これらは喘息増悪因子について検討するメタアナリシス(ORACLE2 study, Meulmeester FL et al, Lancet Respir Med 2025)でも裏付けられ、今後の臨床研究にも役立つ記述になっています。
・異常気象と喘息に関するセクションの新設
雷雨喘息などを含む異常気象と喘息の関連が新設項目として取り上げられ、注意喚起がなされています。
・成人・思春期の喘息の薬物治療の戦略(Track 1/Track 2)
Two-track approachを維持し、Track 1(ICS–formoterol をリリーバーに用いる戦略)を推奨と明示。
※Two-track approachについて
・Track 1(推奨):すべてのステップでリリーバー(頓用)に低用量ICS–formoterolを使う戦略。
Step1–2:AIR(Anti-inflammatory reliever)-only(必要時の低用量ICS–formoterolのみ)
Step3–5:MART(同じICS–formoterolを維持+頓用で用いる)
・Track 2(代替)
Track 2は、リリーバーをSABAもしくはICS-SABAとし、ICSをベースとしてLABAを加える戦略となります。
MARTまで視野に入れると同一薬で維持・頓用が完結し、シンプルになり、GINAでは基本的にはTrack 1を推奨しています。
このなかで、低用量ICSは非常に有効であるものの、多くの患者はアドヒアランスが不良であること、軽症に見える喘息患者も依然として重症増悪のリスクがあることを紹介されました。
加えて、生涯で4-5回程度の全身性ステロイド(OCS)の投与でも骨粗鬆症、糖尿病、白内障、心不全、肺炎などの有害事象リスクが累積的に上昇することを紹介され、OCS投与最小化の必要性を強調されました。
また、日本のガイドライン(喘息診療実践ガイドライン2024:PGAM 2024)との差異として、GINAは専門医を含む幅広い医療者向けの国際ガイドラインであり、PGAMは非専門医・プライマリーケア医に重点を置いたガイドラインであることを解説いただきました。
永井先生は幅広い疾患に精通しており、現在は、ニューモシスチス肺炎・喘息・COPDを中心に臨床研究と若手医師の論文指導に取り組んでいます。
永井先生についての記事は以下のリンクをご参照ください。
