注目論文:COPDへのβ遮断薬上乗せは予後を改善せず(PACE試験)

呼吸器内科
COPDと心血管疾患の合併は日常診療で頻繁に遭遇します。過去のBLOCK-COPD試験(2019)ではメトプロロールがCOPD増悪リスクを高める可能性が示唆され、議論となっていました。今回、より選択性の高いビソプロロールを用いたPACE試験が行われましたが、結果は「無益(差なし)」でした。心不全や虚血性心疾患といった明確な循環器内科的適応がない限り、COPD患者に対して「心肺保護」や「予後改善」を期待して漫然とβ遮断薬を投与すべきではない、というエビデンスが強化されたと言えます。
Bisoprolol to prevent adverse cardiac events (PACE) in COPD: a multicentre, double-blind, randomised, controlled, phase 3 trial COPDにおける心血管イベント予防のためのビソプロロール(PACE):多施設共同二重盲検ランダム化比較第3相試験 Jenkins CR, Martin A, Chang CL, et al; PACE investigators. Lancet Respir Med. 2026 Jan 21:S2213-2600(25)00390-X.
背景: 心血管疾患は慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者によく見られる併存症ですが、心血管イベントや死亡率を減少させるためのβ遮断薬の有効性と安全性は不確実なままでした。本研究は、心臓選択性β遮断薬であるビソプロロールを通常のCOPD治療に追加することで、心肺予後が改善するかどうかを評価するために設計されました。

研究デザイン: オーストラリア、インド、ニュージーランド、スリランカの22施設で実施された二重盲検ランダム化比較第3相試験です。40~85歳のCOPD患者(気管支拡張薬投与後の予測FEV1 30~70%、かつ過去2年間に少なくとも1回のCOPD増悪歴あり)を対象としました。参加者は、通常のCOPD治療に加え、ビソプロロール(1.25~5 mg)またはプラセボを1日1回経口投与する群にランダムに割り付けられ、2年間追跡されました。主要評価項目は、死亡(最重要)、心血管または呼吸器による入院、増悪、QOL指標、FEV1の順でランク付けされた心肺効果の複合とし、Win Ratio(勝率)を用いて解析しました。

結果: 280名の患者がビソプロロール群(n=143)またはプラセボ群(n=137)に割り付けられました。ベースラインの平均予測FEV1は45%でした。主要評価項目の解析において、Win Ratioは0.95(95%CI 0.72-1.25、p=0.72)であり、ビソプロロールによる利益は認められませんでした。全死亡率、心肺入院、主要心血管イベント(MACE)、中等度または重度のCOPD増悪において、両群間に有意差は見られませんでした。また、FEV1、COPD症状、QOL、有害事象の発生率にも有意差はありませんでした。

結論: 中等度から重度のCOPD患者において、ビソプロロールの投与は、全体的な心肺の健康状態、全死亡率、または重篤な心肺イベントに対して改善効果をもたらしませんでした。