注目論文:特発性肺線維症(IPF)におけるACE阻害薬の使用と死亡率低下の関連

呼吸器内科
ACE阻害薬(ACE-I)がIPFの予後を改善する可能性を示した興味深い報告です。英国の大規模データベースを用いた解析で、IPF患者においてACE-I使用が全死亡リスク低下(HR 0.82)と関連していた一方、対照群のCOPDではその関連が見られなかった点は、IPF病態への特異的な作用(抗線維化作用など)を示唆させます。あくまで観察研究であり、因果関係の証明には前向き試験が必要ですが、IPF患者に高血圧等の併存症がある場合、降圧薬の選択肢としてARBだけでなくACE-Iも積極的に考慮する一つの根拠になり得るでしょう。実臨床における薬剤選択の参考になるデータです。
Mortality Outcomes and Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitor Use in Patients With Idiopathic Pulmonary Fibrosis 特発性肺線維症患者における死亡転帰とアンジオテンシン変換酵素阻害薬の使用 Ozaltin B, Chapman R, Follet T, et al. Chest, 2026 Jan;169(1):139-147.
背景: アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、心保護作用が証明されている広く使用される降圧薬です。過去の基礎研究および臨床研究において、ACE阻害薬療法が特発性肺線維症(IPF)の疾患進行を遅らせ、死亡率を低下させる可能性が示唆されています。

研究デザイン: 英国のClinical Practice Research Datalink(CPRD)電子カルテデータ等を用いた後ろ向き解析を実施しました。IPF患者とCOPD患者をACE阻害薬の使用状況(診断前5年間に3回以上の処方ありと定義)に基づいて層別化し、傾向スコアマッチングを用いて年齢、性別、喫煙歴でマッチングさせました。多変量Cox回帰分析を行い、年齢、性別、BMI、喫煙状況、社会経済的剥奪指標、糖尿病、慢性腎臓病、および一般的な心血管併存疾患で調整しました。IPFコホートでは、競合リスク解析を用いて原因特異的死亡率を考慮しました。

結果: 本研究には3,579人のIPF患者と、マッチさせたCOPD対照群が含まれました(平均年齢74歳、女性36%)。IPFコホートでは1,328人(37%)がACE阻害薬使用者であり、COPD患者では1,061人(30%)でした。ACE阻害薬の使用は、IPF患者において併存疾患とは独立して生存率の改善と関連していましたが(ハザード比 0.82; 95% CI 0.75-0.91; P ≤ .001)、COPD患者では同様の関連は見られませんでした(ハザード比 1.09; 95% CI 0.96-1.23; P = .180)。

結論: 本研究において、ACE阻害薬療法はIPFにおける全死亡率の低下と独立して関連していましたが、COPDでは関連が見られませんでした。これらの所見をIPF集団で確認するために、前向き試験が必要です。