注目論文:妊娠中のCOVID-19ワクチン接種による母体・周産期予後の改善効果

呼吸器内科
カナダの大規模データベース(CANCOVID-Preg)を用いた、妊娠中のSARS-CoV-2感染者約2万例を対象とした重要な報告です。デルタ株およびオミクロン株のいずれの流行期においても、ワクチン接種が妊婦の入院リスクを6割以上減少させ、集中治療室(ICU)入室リスクを9割も低減させることが示されました。特筆すべきは、母体の重症化予防のみならず、切実な問題である「早産」のリスクも有意に低下させている点です。 「妊娠中のワクチンは不安」という声は臨床現場で今なお耳にしますが、本研究は、ワクチンが母体と児の両方を守る強力な手段であることを、実臨床のデータ(Real-world data)をもって改めて裏付けています。
The Role of Vaccination in Maternal and Perinatal Outcomes Associated With COVID-19 in Pregnancy
妊娠中のCOVID-19に関連する母体および周産期の転帰におけるワクチンの役割
McClymont E, Blitz S, Forward L, et al.
JAMA. 2025 Dec 15:e2521001.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41396589/
背景: COVID-19およびワクチン接種が妊娠の経過に与える影響については、依然として知識のギャップが存在します。本研究の目的は、妊娠中のSARS-CoV-2感染に関連する母体および周産期の転帰に対するワクチン接種の影響を調査することです。

研究デザイン: カナダの9つの州・準州におけるCANCOVID-Pregデータベースを使用し、2021年4月5日(デルタ株流行開始および妊娠中のワクチン推奨開始)から2022年12月31日までの期間にSARS-CoV-2に感染した妊婦とその乳児を対象とした人口レベルのサーベイランスを実施しました。COVID-19診断前のワクチン接種の有無により、入院、集中治療室(ICU)入室、および早産のリスクを比較しました。

結果: 解析対象となった19,899例のうち、72%(14,367例)が感染前にワクチン接種を受けており、28%(5,532例)が未接種でした。ワクチン接種は、デルタ株・オミクロン株の両期間において、入院リスク(両期間とも相対リスク [RR] 0.38)、ICU入室リスク(両期間とも RR 0.10)、および早産リスク(デルタ株:RR 0.80、オミクロン株:RR 0.64)の低下と関連していました。多変量解析で併存疾患を調整した後も、未接種者は接種者に比べて、オミクロン株流行期で2.43倍、デルタ株流行期で3.82倍入院リスクが高いという結果でした。

結論: COVID-19診断前の、妊娠前または妊娠中のSARS-CoV-2ワクチン接種は、ウイルスの変異株の種類に関わらず、母体の重症化および早産のリスク低下と関連していました。