注目論文:低中所得国における慢性気管支炎の実態とリスク因子

呼吸器内科
「慢性気管支炎(CB)」はCOPDの古典的なフェノタイプですが、気流閉塞を伴わない段階であってもQOL低下や入院リスク増加と強く関連することが改めて示されました。本研究は低中所得国(LMIC)を対象としており、タバコだけでなく「バイオマス燃料曝露」や「結核既往」が強力なリスク因子となっている点が特徴的です。日本でも高齢者や海外ルーツの患者さんにおいて、これらの曝露歴や既往歴は呼吸器症状の背景として見逃せません。咳・痰だけの段階を「軽症」と片付けず、将来のCOPD発症や増悪リスクを見据えた早期介入(禁煙、環境調整)の重要性を示唆するデータです。
A multi-country cohort study evaluating the prevalence, risk factors, lung function and clinical outcomes of chronic bronchitis in low- and middle-income countries
低中所得国における慢性気管支炎の有病率、リスク因子、肺機能および臨床転帰を評価する多国間コホート研究
Robertson NM, Sharma AK, Yang M, et al.
Eur Respir J. 2025 Dec 11:2501435.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41381225/
背景: 慢性気管支炎(CB)はCOPD患者の最大40%に影響を及ぼし、疾患の早期予測因子やCOPD発症の前兆となる可能性があります。本研究では、3つの低中所得国(LMIC)におけるCBの有病率、リスク因子、および関連する臨床転帰を調査しました。

研究デザイン: バクタプル(ネパール)、リマ(ペルー)、ナカセケ(ウガンダ)の40歳以上の成人を対象とした住民ベースの研究を実施しました。CBは「4週間以上にわたり週数日以上の湿性咳嗽(痰を伴う咳)があること」と定義しました。多変量対数二項回帰を用いて、CBに関連するリスク因子と転帰を特定しました。

結果: 9,664名の参加者(平均年齢56.2歳、男性51.0%、喫煙歴あり66.9%)のうち、CBの有病率は9.7%であり、そのうち31.5%はCOPDも併発していました。有意なリスク因子には、高齢、男性、結核既往(調整RR 1.45)、喘息既往(2.11)、喫煙(パックイヤー)、慢性呼吸器疾患の家族歴、受動喫煙曝露、低い社会経済的地位、屋内バイオマス燃料曝露(1.45)が含まれました。CBを有する参加者は、呼吸困難感が強く、呼吸器健康状態が悪化しており(SGRQスコア高値)、入院率も有意に高い結果でした(すべてp<0.001)。

結論: CBはLMICの環境において一般的であり、受動喫煙、バイオマス曝露、呼吸器疾患の既往など、複数の修正可能なリスク因子と関連しています。これらの要因に対処することで、疾患負担を軽減し、QOLを改善できる可能性があります。