注目論文:PRISmの不安定性とスパイロメトリーの経年変化

呼吸器内科

PRISm(Preserved Ratio Impaired Spirometry)はCOPDの前駆状態として注目されていますが、本研究はその「不安定性」を浮き彫りにしました。閉塞性障害が比較的安定しているのに対し、PRISmの約半数は4年で病態が変化(正常化や閉塞への移行など)しています。これは一時点のスパイロメトリーだけで判断することの危うさを示唆しており、呼吸機能検査の経時的なフォローアップと、単なる気流制限だけでなく肺容量(Lung volume)を含めた評価の重要性を再認識させるデータです。

Prevalence and Spirometric Transitions of PRISm and Obstruction: A Population-Based Study PRISmおよび閉塞性障害の有病率とスパイロメトリー上の移行:集団ベース研究 Lim CJM, Mraz TL, Gross C, Irvin CG, Franssen FME, Breyer MK, Wouters EFM, Breyer-Kohansal R. Respirology. 2025 Nov 30. doi: 10.1002/resp.70165
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41320949/
背景: 本研究は、基準下限値(LLN)を用いて定義されたスパイロメトリーパターン(正常気流、PRISm、閉塞性障害)の有病率および経時的な移行を評価することを目的としました。 ※PRISm:FEV1/FVC≧LLNかつFEV1<LLN

研究デザイン: オーストリアの一般住民を対象としたLEAD研究において、気管支拡張薬投与後の肺機能検査値をVisit 1(V1)およびVisit 2(V2)で検討しました。7,232名(18歳以上)が4.3±0.6年後に再検査され、各スパイロメトリーパターンに分類されました。静的肺気量および流量の変化も追加で検討しました。

結果: ベースライン時の異常スパイロメトリーは6.7%でしたが、PRISmの有病率(V1: 2.2%、V2: 1.6%)および閉塞性障害の有病率(V1: 4.5%、V2: 6.1%)は全体としては経時的に一定でした。しかし、V1でPRISmであった個人は高い移行率(48.9%が別の状態へ移行)を示したのに対し、V1で閉塞性障害であった個人は比較的安定していました(77.8%が閉塞のまま)。閉塞性障害から改善した人の多くはベースラインのFEV1/FVC値がLLNの閾値に近い値でした。経時的な肺機能検査値の変化は移行パターンによって大きく異なり、特に新規にPRISmを発症した群と新規に閉塞性障害を発症した群では顕著な差がありました。

結論: スパイロメトリーパターンの異なる移行状態における肺機能の経時的変化が示されました。正確なモニタリングと診断のためには、反復的なスパイロメトリー評価と肺気量測定を組み合わせる必要性が示唆されます。