注目論文:COPD増悪評価のパラダイムシフト「BAtモデル」提唱
呼吸器内科
現在のCOPDガイドライン(GOLDなど)における増悪の重症度分類は、「どの薬剤を使ったか」「入院したか」という医療資源利用に基づく事後的な評価が主であり、目の前の患者の予後予測や治療選択には不十分でした。本論文が提唱する「BAtモデル」は、患者の基礎状態(Baseline)、発作の激しさ(Acuity)、そして原因(trigger)の3軸で増悪を捉え直す概念です。心不全や肺炎では当たり前に行われている「患者背景と病態生理」に基づく評価をCOPD増悪にも導入する試みであり、個別化医療(Precision Medicine)への重要な一歩として臨床医の感覚に非常に合致します。
Multidimensional prognostic risk stratification of COPD exacerbations: the baseline, acuity, and trigger (BAt) model
COPD増悪の多次元的予後リスク層別化:ベースライン、急性度、トリガー(BAt)モデル
Aung HWW, Vermeersch K, McAuley HJC, et al.
Lancet Respir Med. 2025 Nov 25:S2213-2600(25)00362-5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41314222/
COPD増悪の多次元的予後リスク層別化:ベースライン、急性度、トリガー(BAt)モデル
Aung HWW, Vermeersch K, McAuley HJC, et al.
Lancet Respir Med. 2025 Nov 25:S2213-2600(25)00362-5.
背景: 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪(AECOPD)は、患者と医療システムに多大な負担を強います。現在、AECOPDの重症度は主に医療利用の結果(入院の有無など)に基づいて分類されていますが、病因の複雑さ、臨床像、イベント後の経過、および患者の視点を考慮すると、このアプローチは不十分です。臨床的悪化の原因や程度、あるいは治療の実施や将来の増悪予防が依存する個人のベースライン状態に対処できていません。
研究デザイン: AECOPDの重症度と予後リスクを層別化するための多次元モデルの概念化および提唱。
結果: 以下の3つの異なるドメインを統合した「BAtモデル」を構築しました:
-
Baseline functional status(ベースラインの機能状態):患者の予備能。
-
Acuity(急性度):イベントの強度。
-
trigger(トリガー):原因となる誘因(ウイルス、細菌、好酸球性炎症など)。
結論: AECOPDに対するBAt分類は、より個別化された予後予測と治療的意義をもたらす可能性があります。現在、このモデルの検証プロセスが進行中であり、予備的な知見はその実現可能性を支持しています。