注目論文:オミクロン期におけるニルマトレルビル・リトナビルの入院予防効果(実世界データ)

呼吸器内科
パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル)は併用禁忌の多さなどから処方のハードルが高い薬剤ですが、本研究はオミクロン株流行下においてもその強力な入院予防効果を再確認させる重要な実世界データです。特筆すべきは、ワクチン接種完了者においてもNNT(治療必要数)が17と良好であり、重度免疫不全者に至ってはNNTが7と極めて高い費用対効果を示している点です。「ワクチンを打っているから大丈夫」と過信せず、ハイリスク群、特に免疫不全患者に対しては、発症早期に確実に本剤を投与する戦略が依然として重要であることを示唆しています。
Real-World Effectiveness of Nirmatrelvir-Ritonavir in Preventing Coronavirus Disease 2019-Associated Hospitalization: A Population-Based Cohort Study in the Province of Québec, Canada COVID-19関連入院の予防におけるニルマトレルビル・リトナビルの実用的有効性:カナダ・ケベック州における集団ベースコホート研究 Kaboré JL, Laffont B, Diop M, Tardif MR, Turgeon AF, Dumaresq J, Luong ML, Cauchon M, Chapdelaine H, Claveau D, Brosseau M, Haddad E, Benigeri M. Clin Infect Dis. 2025 Oct 29:ciaf145.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41160182/
背景: ニルマトレルビル・リトナビルは、オミクロン株出現前のCOVID-19による入院および死亡を減少させることが示されていますが、最新の実世界エビデンスが必要です。本研究は、高リスク外来患者において、本剤がCOVID-19関連入院のリスクを低減するかどうかを評価することを目的としました。

研究デザイン: 2022年3月15日から10月15日(オミクロン期)の間にSARS-CoV-2に感染した外来患者を対象とした、ケベック州の臨床・行政データベースを用いた後ろ向きコホート研究です。傾向スコアマッチングを用いて、ニルマトレルビル・リトナビル治療群と非治療群を比較しました。主要評価項目は、インデックス日から30日以内のCOVID-19関連入院の相対リスク(RR)とし、ポアソン回帰を用いて解析しました。

結果: 合計14,756組の治療群と対照群がマッチングされました。ワクチン接種状況に関わらず、ニルマトレルビル・リトナビル投与は入院リスクの74%減少と関連していました(RR 0.26 [95% CI, 0.23-0.29];NNT 15)。この効果は、初回ワクチン接種が不完全な患者でより顕著でした(RR 0.13;NNT 9)。また、初回ワクチン接種完了者においても、年齢や最終接種からの経過時間に関わらず有益性が認められました(RR 0.28;NNT 17)。サブグループ解析では、重度の免疫不全を有する外来患者において、最終接種からの期間に関わらず入院リスクの有意な低下が示されました(RR 0.28;NNT 7)。

結論: ニルマトレルビル・リトナビルは、ワクチン接種が不完全または完了している高リスク外来患者、および免疫不全患者において、年齢や最終接種からの期間に関わらず、COVID-19関連入院のリスクを低減させます。