注目論文:米国におけるアスペルギルス症関連死亡の実態と増加傾向

呼吸器内科
モールド活性のあるアゾール系抗真菌薬が普及した現代における、アスペルギルス症の死亡統計に関する重要な報告です。2018年から2024年の米国死亡診断書データの分析で、アスペルギルス症関連死亡が増加傾向にあることは看過できません。特に後半の増加はCOVID-19の影響(CAPA等)も推察されますが、高齢者や男性でリスクが高い点は従来の認識と合致します。診断書ベースの解析には限界があるものの、死因の22%がアスペルギルス症自体によるものであり、依然として高い疾病負荷を示しています。我々呼吸器内科医にとって、早期診断と適切な抗真菌薬治療の重要性を再認識させるデータと言えるでしょう。
Aspergillosis-Attributable Mortality in the United States: Analysis of Death Certificate Data
米国におけるアスペルギルス症に起因する死亡率:死亡診断書データの分析
Walsh TJ, Sicignano D, Mastropietro M, Lovelace B, Coleman CI.
Clin Infect Dis. 2025 Nov 24:ciaf653.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41284728/
背景: モールド(糸状菌)に活性を持つトリアゾール系抗真菌薬が使用されるようになった現代において、アスペルギルス症に起因する全国的な死亡率は十分に理解されていません。先行研究でも侵襲性真菌感染症に関連する死亡率を評価するために死亡診断書を用いていますが、データが古く、アスペルギルス症単独による死亡に関する知見は限られていました。

研究デザイン: 2018年から2024年までの米国人口動態統計システム(National Vital Statistics System)のデータを解析しました。死亡診断書のいずれかの箇所にICD-10コード「B44.x」が記載されているものをアスペルギルス症に起因する死亡と特定しました。人口100万人あたりの年齢調整死亡率(AAMR)と95%信頼区間(CI)を算出し、人口統計学的特性ごとに層別化しました。

結果: 7,063件のアスペルギルス症に起因する死亡が特定されました(AAMR=2.43、95%CI 2.37-2.49)。そのうち22.0%でアスペルギルス症が直接死因(primary cause)として記載されていました。最も多く記載されていた病型コードは侵襲性アスペルギルス症(IA)(n=4,880)であり、具体的には「その他の肺アスペルギルス症(B44.1)」(n=4,292)でした。詳細不明のアスペルギルス症は2,139件でした。アスペルギルス症による死亡は、2018-2020年(AAMR=2.01)と比較して、解析期間の後半(AAMR範囲:2.50-3.01)で増加していました。死亡の60%近くが65歳以上の高齢者で発生しており、AAMRは男性で高値でした(リスク比=1.64)。人種や民族によるAAMRの差は認められませんでした。

結論: アスペルギルス症の記載がある死亡診断書を有する患者において、主たる死因としての寄与率は22.0%でした。本研究の結果は、アスペルギルス症の真の疫学を理解し、疾患認識の向上および死亡率低減に向けた取り組みを策定する上で有用であると考えられます。