注目論文:高齢者に対するPCV13の実臨床での有効性(タイからの報告)

呼吸器内科
私が編集委員を務めるScientific Reportsからの報告です。PCV13(13価肺炎球菌結合型ワクチン)の高齢者への有効性(VE)に関しては欧米のデータが主でしたが、アジア(タイ)からの実臨床データ(RWE)は貴重です。調整VEが73.3%と高い値を示しましたが、接種率が低く(4.7%)、信頼区間が広い(9.0-92.1%)点には統計的な解釈上の注意が必要です。しかし、ワクチン接種群で人工呼吸器装着の必要性が低下したという結果は、重症化予防の観点から非常に重要です。現在はPCV20やPCV21へ移行しつつある過渡期ですが、結合型ワクチンの臨床的有用性を再確認するエビデンスとして意義深い研究です。
Effectiveness of the 13-valent pneumococcal conjugate vaccine against medically attended pneumococcal lower respiratory tract infection among older adults: a case-control study 高齢者における医療機関受診を要する肺炎球菌性下気道感染症に対する13価肺炎球菌結合型ワクチンの有効性:症例対照研究 Ngamprasertchai T, Phatharodom P, Intalapaporn K, Sutthipool K, Chongtrakool P, Yungyuen T, Luvira V, Ratanasuwan W, Rattanaumpawan P, Lawpoolsri S, Pitisuttithum P. Sci Rep. 2025 Nov 20;15(1):40997
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41266522/
背景: 13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)は、高齢者や慢性疾患・免疫不全を有する個人に対して10年以上にわたり推奨されています。しかし、特に低・中所得国(LMIC)の高齢者集団におけるワクチン有効性(VE)に関する実臨床エビデンスは限られています。本研究は、高齢者およびハイリスク成人における肺炎球菌性下気道感染症(LRTI)に対するPCV13のVEを評価することを目的としました。

研究デザイン: 2014年1月から2024年12月までの三次大学病院のデータを用いた症例対照研究を実施しました。医療機関を受診した60歳以上のLRTI患者を対象としました。「症例」は培養により肺炎球菌が確認されたLRTI患者、「対照」はICD-10コードで特定された肺炎球菌が分離されなかったLRTI患者と定義しました。ロジスティック回帰を用いて、症例と対照間のPCV13接種オッズ比を比較しVEを推定しました。

結果: LRTI患者825名のうち、PCV13接種者は39名(4.7%)、未接種者は786名(95.3%)でした。肺炎球菌性LRTIに対するPCV13の粗VEは71.9%(95% CI: 27.3-89.1)、調整VEは73.3%(95% CI: 9.0-92.1)でした。入院時の人工呼吸器装着の必要性は、肺炎球菌性LRTI患者において未接種者と比較してPCV13接種者で減少しました。VEは75歳以上の高齢者でも75歳未満と同等でした。対照群を非肺炎球菌性細菌性LRTIに限定した感度分析では、粗VEは76.1%(95% CI: 34.3-91.3)に上昇しました。

結論: PCV13は、高齢者における医療機関受診を要する肺炎球菌性LRTIの予防において、実臨床での有効性を示しました。LMICの高齢者におけるPCV13の公衆衛生上の利益が明確に示されました。