注目論文:米国における新規21価肺炎球菌ワクチン(PCV21)の費用対効果と血清型4の影響

呼吸器内科
これまでのPCV15/20に加え、成人特化型のPCV21(Capvaxive)が登場し、ワクチン選択の議論が活発化しています。本研究は米国データに基づき、PCV21がPCV20と比較して優れた費用対効果(リスク群では費用削減)を示すことを明らかにしました。しかし、PCV21は血清型4(ST4)を含まないため、ST4による疾患割合が30〜35%を超える地域では逆にPCV20が優位になるという点は見逃せません。ワクチンの有効性・安全性の疫学的評価に関わる立場としても、単に新しいワクチンへ切り替えるだけでなく、地域の血清型分布(疫学)に基づいた戦略的な選択が重要であることを再認識させる良著です。
Cost-effectiveness of age-based and risk-based use of the new 21-valent pneumococcal conjugate vaccine among U.S. adults 米国成人における新規21価肺炎球菌ワクチンの年齢ベースおよびリスクベース接種の費用対効果 Stoecker C, Wang Y, Leidner AJ, Cho BH, Ward C, Kobayashi M. Vaccine. 2025 Nov 21;69:127940.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41274026/
背景: 2024年6月、米国予防接種諮問委員会(ACIP)は、PCV未接種の65歳以上の全成人(年齢ベース)、および19〜64歳のリスク保有者(リスクベース)に対し、15価または20価PCV(PCV15/20)の代替として21価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV21)を推奨しました。PCV21はPCV20とは異なる血清型に対して有効性を示します。

研究デザイン: 米国成人を対象に、PCV20と比較したPCV21の年齢ベースおよびリスクベース接種の費用対効果分析(CEA)を実施しました。65歳(年齢ベース)および42歳(リスクベース)の確率的コホートモデルとモンテカルロシミュレーションを用い、接種費用、医療費、疾病負担などを推定しました。PCV21は血清型4(ST4)を含まないため、ST4の有病率に対する感度分析も行いました。

結果: PCV21の年齢ベース接種における増分費用効果比(ICER)は、獲得質調整生存年(QALY)あたり4,132ドル(95%信頼区間:費用削減〜18,599ドル)であり、リスクベース接種では費用削減(Cost-saving)となりました。しかし、肺炎球菌疾患の30%以上がST4に起因する場合、年齢ベース接種ではPCV20がPCV21に対して優越(QALYが高く低コスト)し、35%以上がST4に起因する場合はリスクベース接種でもPCV20が優越しました。

結論: 米国成人において、従来のPCV20の推奨をPCV21に置き換えることは、健康アウトカムを改善し、65歳時点での費用は中等度で、リスクベース推奨では費用を削減しました。しかし、ST4が肺炎球菌疾患の高い割合を占める地域においては、PCV21と比較してPCV20の方がより多くの疾患を予防し、コストを削減すると予測されます。