注目論文:慢性肺アスペルギルス症(CPA)に対するボリコナゾール vs イトラコナゾール:VICTOR-CPA試験

呼吸器内科
慢性肺アスペルギルス症(CPA)治療において、ボリコナゾール(VRCZ)がイトラコナゾール(ITCZ)より優れているか(Superiority)を検証したインドからの単一施設RCTです。結果は、6ヶ月時点での良好な反応率に有意差はなく(VRCZ 69% vs ITCZ 67%)、むしろVRCZ群で治療関連有害事象が有意に多い(55% vs 34%)というものでした。日本ではVRCZを使うことが多いと思いますが、治療選択について再考させる研究となりました。しかし海外の単一施設のRCTのため、結果を日本の臨床に適応するにあたっては注意が必要です。
Oral itraconazole versus oral voriconazole for treatment-naive patients with chronic pulmonary aspergillosis in India (VICTOR-CPA trial): a single-centre, open-label, randomised, controlled, superiority trial.
インドにおける未治療の慢性肺アスペルギルス症患者に対する経口イトラコナゾールと経口ボリコナゾールの比較(VICTOR-CPA試験):単一施設オープンラベルランダム化比較優越性試験
Sehgal IS, Agarwal R, Dhooria S, Prasad KT, Muthu V, Aggarwal AN, Rudramurthy SM, Garg M, Chakrabarti A.
Lancet Infect Dis. 2025 Oct 29:S1473-3099(25)00537-7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41175884/
背景: イトラコナゾール(ITCZ)とボリコナゾール(VRCZ)は共に慢性肺アスペルギルス症(CPA)の治療に用いられます。しかし、ITCZの治療成功率は約65-70%に留まります。VRCZは最小発育阻止濃度が低く、経口バイオアベイラビリティが良好であるため、より良い結果をもたらす可能性がありますが、これまで直接比較試験は行われていませんでした。我々は、CPA治療において経口VRCZが経口ITCZより優れているかを評価することを目的としました。

研究デザイン: 本試験は、インドのチャンディーガルにある第三次医療病院の呼吸器クリニックで実施された、単一施設、前向き、オープンラベルの優越性試験です。慢性空洞性肺アスペルギルス症(CCPA)または慢性線維性肺アスペルギルス症(CFPA)を有する18歳以上の未治療の成人を登録しました。同意を拒否した者、過去6ヶ月間に3週間以上アゾール系抗真菌薬の投与を受けた者、他の形態のアスペルギルス症を有する者は除外しました。参加者は、コンピュータ生成のランダム化シーケンスを用い、経口ITCZ(200mg 1日2回)または経口VRCZ(200mg 1日2回)を6ヶ月間投与する群に1:1でランダムに割り付けられました。参加者、介入を行うスタッフ、臨床結果評価者、データ分析者は治療割り付けを知らされていましたが、放射線科医は臨床詳細と治療割り付けを知らされずに胸部画像を評価しました。主要評価項目は、修正intention-to-treat(mITT)集団における、6ヶ月時点での良好な反応(臨床的および放射線学的な安定または改善)を達成した参加者の割合としました。安全性解析もmITT集団で行われました。

結果: 2021年4月15日から2024年5月31日の間に116名がランダムに割り付けられました(各群58名)。全参加者が治験薬を少なくとも1回投与され、主要解析に含まれました。6ヶ月時点で良好な反応を達成した参加者の割合は両群で同等でした(VRCZ群 69% [40/58] vs ITCZ群 67% [39/58]; 絶対リスク減少 -0.02 [95% CI -0.2~0.15], p=0.84)。VRCZはITCZと比較して、治療関連の有害事象が有意に多く(VRCZ群 55% [32/58] vs ITCZ群 34% [20/58], p=0.025)、死亡は4名で、すべてVRCZ群でしたが、いずれも治療に直接起因するものではありませんでした。

結論: VRCZはCPA治療においてITCZに対する優越性を示さず、有害事象の発生率が有意に高かったです。我々の知見は、CPAの推奨治療薬としてITCZの継続使用を支持するものですが、VRCZも合理的な代替薬であり続けます。両薬剤の選択は、患者の忍容性、薬剤の入手可能性、コストなどの要因に基づいて行われるべきです。