注目論文:高齢者におけるRSウイルス感染症の疾病負荷:インフルエンザとの比較

呼吸器内科
高齢者におけるRSウイルス(RSV)感染症の重要性を示す英国からの報告です。2023-24年のシーズンにおいて、RSVによる入院率はインフルエンザの約半分であったものの、入院後の30日死亡率(RSV 10.6% vs インフルエンザ 8.7%)を含む臨床転帰は同等でした。特に、COPDや心疾患といった基礎疾患の増悪が主な入院理由である点は臨床現場の実感と一致します。成人用RSVワクチンが本邦でも接種可能となった今、RSVが決して小児だけの疾患ではなく、高齢者にとってインフルエンザに匹敵する脅威であることを示す重要なデータです。
Burden of respiratory syncytial virus infection in older adults hospitalised in England during 2023/24.
2023/24年シーズンにイングランドで入院した高齢者におけるRSウイルス感染症の疾病負荷
Symes R, Keddie SH, Walker J, et al.
J Infect. 2025 Sep;91(3):106570.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40780588/
目的:
RSウイルスワクチン導入前のイングランドにおいて、新しい全国的な病院ベースの急性呼吸器感染症(ARI)センチネルサーベイランス(HARISS)システムを用いて、高齢者におけるRSウイルス(RSV)関連ARIの発生率、臨床像、臨床転帰を明らかにすること。

研究デザイン:
7つの病院から、症候性ARIで24時間以上入院した65歳以上の成人を対象とした。RSV関連ARIの入院率をインフルエンザ関連ARIと比較し、臨床転帰はポアソン回帰、死亡率はCox回帰を用いて評価した。

結果:
本研究には2743人の成人が含まれた。2023/24年の冬季において、RSV関連ARIの入院率は10万人あたり58.3人であったのに対し、インフルエンザ関連ARIでは10万人あたり114.6人であった。入院率は年齢とともに増加した。慢性疾患(肺疾患、心疾患、フレイル)の増悪がRSV関連ARIの一般的な入院理由であり、その合計発生率は10万人あたり33.1人であった。RSV関連ARIの成人のほとんど(81%)が少なくとも1つの併存疾患を有し、免疫抑制状態の割合も高かった(26%)。症状および死亡率を含む臨床転帰は、RSV関連ARIとインフルエンザ関連ARIで類似していた。30日死亡率はそれぞれ10.6%対8.7%であった(調整ハザード比 0.85、95%信頼区間 0.6-1.2)。

結論:
イングランドにおいて、RSウイルス感染症は高齢者の入院の一般的な原因である。症状や死亡率を含む臨床転帰は、インフルエンエンザに匹敵する。